研究課題/領域番号 |
15K16169
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平松 千尋 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 助教 (30723275)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 色覚多型 / 遺伝子 / 感性 / 個人差 |
研究実績の概要 |
ヒトには、遺伝子の多型に起因する色覚の多様性が存在する。一般的な色覚は、網膜のS、M、L錐体による3色型色覚であるが、約5%の男性は、M、L錐体に発現する視物質遺伝子の欠損または変異により、赤みと緑みの弁別が困難な2色型色覚、もしくは2色型に近い3色型色覚である。色覚が異なれば、外界のどこに注意を向けるかなど、行動レベルの違いが現れると考えられる。さらには、快/不快、嗜好、美意識など、感性の違いに影響する可能性も考えられる。先行研究においては、色覚が異なることによる色弁別能の違いなど、知覚レベルの研究は進んでいるものの、色覚の違いと感性の個人差との関連性についてはあまり調べられていない。また、遺伝子レベルの違いと感性の個人差との関連を詳しく調べた例は少ない。 本研究では、遺伝的な色覚の多様性が、感性の個人差に与える影響を明らかにすることを目的とする。そのために、遺伝子解析と行動・心理実験の両面から研究を進めていく必要がある。実験による客観的なデータの積み上げにより、個人差に配慮した視覚デザインの発展に繋げることを目標としている。 平成27年度は、遺伝子解析用のヒトゲノムDNAの抽出、視線計測および感性評価等の行動・心理実験ができる環境・実験プログラムを確立した。また、目的に相応しい画像、評価方法の選定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、遺伝子解析および行動・心理実験ができる環境・実験プログラムを確立した。ヒトゲノムを用いた遺伝子研究には所属機関の倫理委員会から承認を受ける必要があり、手続きに時間を要した。無事承認がおりたため、28年度からは本格的に遺伝子解析を進める予定である。 色覚多型に関連した行動測定と感性評価に相応しい絵画の選定は、画像の色度解析により順調に進んでいる。ただし、当初は著作権保護期間が切れた西洋絵画の使用を中心に計画していたが、デザイナーへ成果を還元することを念頭に、現代の作家によるグラフィック作品も使用することとし、選定および使用許諾の手続きに時間を要している。 また、一般3色型色覚者に対し、2色型色覚による見え方を模擬する画像シミュレーション・アルゴリズムの検討を行った。これは、遺伝子で既定される先天的な色覚による効果と、発達の過程の視覚入力によってもたらされると考えられる後天的な適応効果を分離するために用いる予定である。 さらに、色覚多型を考慮した視線計測データを予測する顕著性モデルを確立させるため、研究協力者に支援を受けながら予備的実験におけるデータの解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立した実験設備、プログラムを用いて、一般3色型色覚者、その他の色覚保有者を対象として実験を進め、色覚型と行動・感性評価との関連を解析していく予定である。 色覚型判定の精度を高めるために、遺伝子解析方法を変更することにした。錐体視物質遺伝子によって既定される色覚型は、一塩基多型を調べることで判定することができる。しかし、ヒトのM錐体視物質遺伝子はコピー数に大きな多型(個人差)があることが知られている。多コピー存在する場合、機能遺伝子として発現しているコピーの多型部位を調べる必要がある。当初は、口内細胞からのゲノムDNA抽出後、コピー数を考慮せず、色覚型判定を行う予定であった。しかし上記の理由より、今後はコピー数の多型も考慮した解析方法に変更する。そのため、近年急速に普及している、次世代シークエンサーを保有する研究協力者の支援の下、遺伝子解析を行う予定である。
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