本研究では、超高齢社会を迎えた我が国において、今後増大するであろう中途視覚障害者の生活自立、社会参加及び安全性の向上を企図して、触知しやすく理解しやすい触知ピクトグラムデザインを追求する。そのために、これまでの知見から浮き彫りになった2つの観点、すなわち「視覚的顕著性」と「視覚と触覚モダリティ間のミスマッチ(錯触)の補正」等をもとに、最終的な目的は視覚情報のみならず触覚情報をも提供できるピクトグラムを開発する。 まず、JIS型ピクトグラム「標準案内用図記号」の中から視覚障害者が屋外での移動および生活行動範囲を広げられると考えられる10個のピクトグラムを用いて触覚モダリティ間のミスマッチ(錯触) 補正のための前段実験として「凸の適正な高さの評価」を晴眼者を対象に行った。触知認知時間(秒)・触複雑度・分かりにくさ・確信度の総合的な観点から凸の最適な高さは、おおむね0.8mmであることが示唆された。 次に、平成29年に新たに追加されたものも含む全ての標準案内用図記号の中から「施設や設備等を表す図記号」90個を選び「視認性の評価」を晴眼者を対象に行った。何のピクトグラムであるかを触知的に認知しやすい箇所と視覚的に認知(軌跡・停留)しやすい箇所が異なるピクトグラムがあることも示唆された。 さらに、「視覚と触覚モダリティ間のミスマッチ(錯触) の補正」の前段として、「触覚と視覚における誤差」を確認するための実験を行った。触覚と視覚それぞれから入力される情報間のミスマッチ部位は、ピクトグラムデザインの余白が狭い箇所や計上の大きさや長さに生じることが示唆された。今後は詳細を分析し、視覚と触覚モダリティ間のミスマッチ部位を軽減させる形状デザインを模索していく予定である。
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