研究課題/領域番号 |
15K16178
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
菊地 真理 大阪産業大学, 経済学部, 准教授 (10616585)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 居住地選択 / 育児ネットワーク / 子育てサービス / ソーシャル・キャピタル / 育児ストレス |
研究実績の概要 |
本研究は、子育て世帯の居住地での定住意思を促進させる要因について検討するため、子育て世帯数が増減している複数の自治体にて、①就学前児童をもつ親へのアンケート調査、②就学前児童をもつ親へのインタビュー調査、③調査対象者が居住する自治体担当課への行政ヒアリング調査およびフィールドワーク(参与観察)を行う。 定住意思を促進させる要因として、とくに育児ネットワークと子育てサービスの効果に着目する。調査から得られた複数のデータを用いて分析することにより、育児ネットワークの定住促進効果を明らかにし、子育てサービスの充実に資する提言を行うことを目指している。初年度は主に子育て世帯の転入超過が特徴的な近畿地方の1自治体で実施されたアンケート調査の二次分析を行った。現在までに明らかになった主な知見は以下のとおり。 ①定住意思に寄与する育児ネットワークの効果 子育て世帯の母親がもつ現住地での定住意思は、母親の育児ストレスが低減されることによって、高められる。育児ネットワークは、直接的に定住意思に影響を及ぼすだけでなく、育児ストレスを低減させることによって定住意思を促進するという間接的効果も見られた。 ②子育てサービス提供の差がもたらす育児ネットワークの効果の違い 育児ネットワークの形成を目的とした子育てサービスの利用は、子どもを預けたり(世話ネットワーク)悩みを相談したり(相談ネットワーク)近隣で挨拶や世間話をする人間関係(交際ネットワーク)の構築につながっている。自治体で提供されるサービス内容の違いが、子育て世帯の移動や社会増減と関わっている可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度にオリジナルの質問票を作成し複数の近隣自治体で予備調査を行う予定であったが、2013年に実施された子ども・子育て支援新制度策定のためのアンケート調査の自治体データを入手することができ、その二次分析が可能となったため、研究計画を若干変更した。初年度においてはまず、子育て世帯の転入超過が特徴的な近畿地方1自治体のデータ分析を行い、子育て世帯の定住意思を促進する要因分析モデルを構築した。 一方で、子育て世帯の転出超過が顕著な近畿地方2自治体に在住する子育て世帯の母親を対象にしたインタビュー調査や、子育て支援機関へのヒアリング調査も実施し、子育てサービスと子育て世帯の移動の関連について考察した。 研究成果は学会発表(1回)、研究会発表(1回)、論文(1本)、報告書(1冊)としてまとめた。これらのことから、現時点における達成度としては、おおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、初年度に1自治体のアンケート調査から構築した子育て世帯の定住意思を促進する要因分析モデルの妥当性を検証するため、異なる人口移動の特性をもつ別の自治体において実施された調査データによる比較分析、および、分析概念を精緻に操作化し直したオリジナルデータによる再分析を試みる。これによって、子育て世帯の居住地選択に影響を与えている要因について明らかにすることを目指す。 研究成果は国内外の学会で報告すると同時に、論文として発表する。また、行政担当者へフィードバックし、市町村総合計画やまち・ひと・しごと創生総合戦略における子育て支援政策の評価・見直しの検討材料として提供する。 ①自治体アンケート調査二次分析:子育て世帯の転出超過が顕著な自治体で実施された同様のアンケート調査を比較分析する。すでにデータの提供は受けており、初年度に構築した分析モデルの検証を行う。②オリジナルデータによる再分析:育児ネットワークやソーシャル・キャピタルに関する既存研究の調査票を参考に質問項目を選定し、自治体の協力を得ながら調査対象のサンプリングおよび調査を実施する。③インタビュー調査:アンケート調査の回答者からインタビュー調査協力可能なケースをピックアップし、子育てサービスの利用状況、育児ネットワークのタイプ、ソーシャル・キャピタルと、育児ストレスや居住地選択との関わりを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究成果の一部をまとめた報告書の製本作業が年度をまたいでしまったため、その印刷費用分が次年度使用額として生じた。 報告書の内容は、大阪府大東市で実施されたアンケート調査の基礎分析、大東市および東大阪市在住の子育て世帯の母親に対してインタビュー調査、大東市子育て支援機関へのヒアリング調査の結果を照らし合わせ、子育てサービスと世帯移動の関連について考察した。(菊地真理、青木加奈子、菊池慶子、後藤達也,2016,『平成27年度共同研究「子育て世帯の転入・定住を促進する要因分析」報告書①:子育てサービスと子育て世帯の移動』)
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次年度使用額の使用計画 |
報告書原稿自体(全93ページ)は2015年3月末日に完成しており、5月中に印刷製本業者を選定、仕様を確定したのちに発注する。6月中には印刷製本費用として初年度残額分を使用する予定である。
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