研究課題/領域番号 |
15K16188
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
砂野 唯 名古屋大学, 生命農学研究科, 特任助教 (20748131)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酒 / 発酵 / 食文化 / 食品栄養価 / 地域研究 |
研究実績の概要 |
エチオピアのデラシャとコンソ、ギニアのマノンと同じく穀物酒をエネルギー源とする文化をもつネパールのチェパンとグルン、タル、マガル、そして酒を治療や祭事での飲み物として多用するネワールを比較調査の対象とし、醸造方法と飲酒形態について調べた。 醸造方法:醸造方法から大分すると、ネパールではそれぞれチャン(chang)やジャード(jad)と呼ばれる1種類の醸造酒とロキシー(raksi)と呼ばれる蒸留酒1種類が飲まれている。酒の名前と材料、醸造に使う道具は各民族によって異なる。しかし、大きく見れば、モルチャ(morcha)と呼ばれる穀物粉にカビを繁殖させた餅麹を振りかけて糖化・発酵を進める醸造酒と、それを蒸留した蒸留酒に分けられる。このカビを用いた糖化・発酵方法は、中国やブータン、インド北部、ラオス、ベトナム、カンボジアなどアジア一帯で見られる。また、都市部で暮らすネワールは、これら2種類の酒に加えて、風邪や腹痛の治療薬として、さらに2種類の赤い醸造酒を作る。醸造方法はチャンとほぼ同じであるが、枯草菌を繁殖させたコメを材料とするところが異なる。 飲酒形態:農村を居住域とするチェパンやグルン、タル、マガルでは、朝食や昼食として穀物から作った醸造酒(チャン/ジャード)が飲まれることが多い。それは、村落人口のうち男性が占める割合が高いほど顕著である(*ネパールの農村では、男性が傭兵や工場従業員として海外に出稼ぎに出ることが多い。)。一方、農村で暮らすネワールは醸造酒(チャン)を飲み物とすることもあるが、都市部に暮らすネワールは醸造酒(チャン)を飲むことは少ない。しかし、1年の1/3を占める祭りの期間には蒸留酒(ロキシー)を毎日コップ1~4杯ほど飲みながら肉をつまむ。ネワールの蒸留酒は、他の民族と比べてアルコール濃度が高く約45%にもなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
治安の問題で、当初予定していたアフリカでのフィールド調査は実施できておらず、アフリカにおける主食としての酒の醸造や利用についての新しいデータは収集できていない。しかし、それまでに採取した検体の分析やデータ解析によって、アフリカの酒の栄養価や発酵メカニズムに関しては新しい知見を得ることが出来た。 また、新たに調査地としてネパールと日本を加えたことで、アフリカからユーラシア大陸にかけての雑穀ベルトにおける農業と酒食の関係についての調査が可能になり、より広い範囲で酒と食文化について考察が出来るようになった。
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今後の研究の推進方策 |
フィールド調査で集めたデータを解析し、学会発表や論文として発表することを進める。また、アジアのコメ酒の比較として、国内の酒造りに関する調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はアフリカでの調査を計画していたが、アジアでの調査を中心とした。そのため、出張費や物品費、謝金の使い方が当初の計画と異なったものになり、次年度使用額が生じた。本年度は、国内調査やこれまでの研究結果の解析、成果発表を中心に進めていきたい。
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