研究課題/領域番号 |
15K16194
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
阿部 周司 東京工科大学, 応用生物学部, 助教 (60733657)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 冷凍すり身 / ゲル / 再凍結 / 物性 / 卵白 / 澱粉 / Ca-ATPase / マルトトリオース |
研究実績の概要 |
平成28年度は平成27年度に企業から提供されたすり身4ブランドの残り2ブランドについて、再凍結に伴う物性変化、Ca-ATPase活性の変化を確認した。さらにこれらのすり身と陸上2級のすり身から調製したゲルをSDS-PAGEに供し、タンパク質分布を確認した。これらの結果から、再凍結によってCa-ATPase活性が低下し、坐りゲル(塩摺りした肉糊を低温下で放置し、形成させたゲル)のSDS-PAGEの結果から、ミオシン重鎖の多量化の速度が再凍結により遅くなることが確認された。これらの結果から再凍結によって、すり身中のミオシン頭部が変性し、それによりミオシン重鎖の多量化を抑制された(すなわち、坐りゲル形成能が劣化した)と考えられる。また、再凍結された冷凍すり身の弾力補強材として、澱粉は加熱ゲルに対して、固さを改善する効果が確認されたが、しなやかさの改善は見られなかった。一方で、卵白は再凍結によって劣化した坐りゲル形成能を改善し、加熱ゲルそのものの物性も改善した。 さらに、平成28年度はマルトトリオースを冷凍すり身の凍結保護材、さらには再凍結によるゲル形成能の劣化を抑制することを目的として、研究を進めた。その結果、マルトトリオースを添加した冷凍すり身では、坐りゲルの形成能が劣化した。この結果は冷凍すり身開発当時の研究成果と類似している(すり身に糖を添加すると坐りにくくなる)。坐りという現象はタンパク質変性の一種であるため、マルトトリオースの添加がタンパク質の変性を抑制していると考えられ、マルトトリオースが冷凍すり身の凍結保護材、さらには再凍結によるゲル形成能劣化に有効である可能性が考えられた。マルトトリオースの基礎研究(溶解度と結晶化に関する研究)では、マルトトリオースは非常に水に溶解しやすく、また結晶化にしくいことが確認された。平成29年度もマルトトリオースの基礎研究は引き続き行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度中に、陸上2級すりみと平成27年度に企業から提供された4ブランドの冷凍すり身の再凍結による物性変化およびCa-ATPase活性の変化に関するデータを取り終えることができた。これは本研究課題の中心部分であったことから、これらのデータを取り終えることができたのは大きな成果である。さらにはSDS-PAGEによる解析もでき、再凍結によるゲル形成能劣化の現象をさらに詳しく確認することができたのはプラス評価である。また、再凍結された冷凍すり身の弾力補強材として卵白は非常に有効であることが確認できた。これは水産練り製品業界にとって有用なデータになると思われる。 また、マルトトリオースに関する研究について、応用研究面(冷凍すり身への添加)は平成29年度に向けてさらに有益な研究を行える成果が得られた。その一方で、基礎研究面(溶解度および結晶化)では、様々な方法でマルトトリオースの結晶化を目指したものの、マルトトリオースは非常に結晶化しにくいことが確認され、マルトトリオースの結晶化についてはどのような手法で結晶化を目指すかを一から検討し直す必要がある。 以上、マルトトリオースに関する研究では一部に課題を残しているものの、本研究課題の軸となる再凍結された冷凍すり身の有効利用(弾力補強材によるゲル形成能改善の検証)および再凍結によるゲル形成能劣化機構に関する研究は順調に進んでいることから、本研究課題は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
大手水産企業の協力によって、本研究のデータに厚みが増しており、本研究は外部から非常に高い評価を受けている。これは平成29年度日本水産学会春季大会での発表において、参加者からの反響が非常によかったことからも言える。平成29年度は本研究課題の最終年度となるため、最終的な取りまとめとして、学会誌への投稿およびアウトリーチ活動に力を入れる予定である。現時点では、研究成果の公表として、5月に学会発表(第62回低温生物工学会年会)、8月に第19回ジャパンインターナショナルシーフードショーでのポスター発表、同月に東京工科大学先端食品セミナーによるポスター発表を行う予定である。特に8月の2件のポスター発表は民間企業から多くの来場者が予定されている。 なお、現在、課題を残しているマルトトリオースの基礎研究については、本研究に興味を示している企業があるため、その企業との連携も視野に研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の支出ではSDS-PAGEを行うことを決めたため、電気泳動にかかる予算を多めに取った。また、マルトトリオースの基礎研究に課題を残しており(結晶化しにくい)、むやみにマルトトリオースを購入しなかったこと、さらに、マルトトリオースの研究に興味を持っている企業からサンプルの提供があったこと等が、次年度使用額が生じた理由と考える。しかし、残金は999円と少額であり、大きな問題は無いと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
残額が999円と少額であることから、平成29年度に購入予定である消耗品の購入に充当する予定である。
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