研究課題/領域番号 |
15K16197
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
細見 亮太 関西大学, 化学生命工学部, 助教 (20620090)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 氷温 / 熟成 / 食肉 / 脂肪 |
研究実績の概要 |
氷温熟成は0℃から食品が凍り始める温度までの未凍結温度域で熟成をおこなう方法である。食肉の筋肉部の氷結点は約-1.5℃付近であることから、氷温熟成は-1℃付近でおこなわれている。昨年度、私たちは-1℃で豚肉を熟成することは、肉様うま味への寄与が大きいグルタミン酸、甘味を呈するアミノ酸であるアラニン・グリシン・セリン・スレオニン、苦みを呈するバリン・ロイシンの生成速度がチルド(+4℃)熟成より遅かった。氷温熟成ではアミノ酸生成に関わる酵素の至適温度から大きく離れているために活性が低下したことが要因と考えられた。 今年度はもう一方のテーマである氷温熟成処理した豚肉について、食肉脂肪の滑らかさに関わる脂肪融点と遊離脂肪酸量を評価した。その結果、チルド熟成処理と比較し、氷温熟成処理7日目において、皮下脂肪部から抽出した脂質の融点(上昇融点)および遊離脂肪酸量が有意に低値を示した。また薄層クロマトグラフィーによる画像解析の結果、遊離脂肪酸はトリアシルグリセロール(TG)が1,2-ジアシルグリセロール(DG)に分解された時に生成していることが示唆された。豚筋肉中には、脂質加水分解酵素が存在することを明らかにされているために、熟成過程中に低温下でもリパーゼによりTGから遊離脂肪酸とDGが生成されると考えられる。本実験では1,2-DGのスポット濃度に2区間で変化が見られたことから、チルド熟成区でみられた遊離脂肪酸量の増加は、TGのsn-1位およびsn-3位から脂肪酸が切り出されたことによって起きたと考えられる。本研究より、氷温熟成処理した豚肉の皮下脂肪部において、脂肪融点の低下と遊離脂肪酸の生成抑制がみられたことから、氷温熟成豚肉を喫食した際に、より滑らかな食感が得られる可能性があることが示唆された。今後、官能検査によって氷温熟成豚肉の食感の違いを明らかにする必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では、氷温熟成ではチルド熟成と比較し、筋肉内の遊離アミノ酸生成速度の遅延やイノシン酸の分解の抑制する結果が得られた。平成28年度では、氷温熟成によって得られる脂肪融点の低下と遊離脂肪酸の生成抑制がみられたことから、氷温熟成豚肉を喫食した際に、より滑らかな食感が得られる可能性があることが示唆された。これらのことから平成29年度に実施予定の氷温熟成豚肉の官能検査に向け、食味に及ぼす理化学的性状の変化に関するデータが揃ってきている。 また同時に研究を進めている「氷温熟成による脂肪融点低下作用メカニズムの解明」については、脂質中の脂肪酸組成や脂質分子種などが作用している可能性が低いことがわかった。しかし、まだ脂肪融点低下の原因を突き止めるには至っていない。そのため、熟成中もリパーゼによって遊離脂肪酸生成やエステル交換反応が起きることが報告されている。脂肪融点低下の要因としてトリアシルグリセロール構成脂肪酸の分子種組成が変化している可能性もあるため、ガスクロマトグラフを用いて分析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は熟成中の微生物の挙動とヒトでの食味試験を実施する。 微生物について、食肉の安全性に関わる細菌検査について検討を行う。食肉の一般生菌数を好気的条件下および嫌気的条件下で評価し、チルド熟成と氷温熟成の菌増殖速度を評価する。また食味試験については、実際に豚肉を調理し、氷温熟成処理により得られる脂肪融点低下効果や呈味成分の変化がヒトの味覚に及ぼす影響を評点法により評価する。食味官能試験により得られた結果を多変量解析統計ソフトを利用し、主成分分析、因子分析等の手法で食味と成分の関連を調査する。 また昨年度から実施している氷温熟成した際に皮下脂肪部の脂肪融点が低下する現象を確認しているが、その原因が明らかになっていない。今年度はトリアシルグリセロール構成脂肪酸の分子種組成が変化している可能性もあるため、ガスクロマトグラフを用いて分析を行う予定である。 これらの評価を行うことで、氷温熟成による食肉の安全性や食味の向上効果の評価を行う。
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