これまでに氷温域での熟成処理を行った食肉をヒトが喫食した際の感覚については明らかになっていない。そこで今年度は、氷温熟成またはチルド熟成処理を行った豚肉について、官能評価試験を行い、食味特性を評価した。 豚ロース部を同一個体から2本切り出した。1 cmの厚さに豚肉を切り出し、脱気・個包装した後、チルド(4℃)または氷温(-1℃)庫で熟成を開始した。チルド熟成は21日、氷温熟成は49日で熟成を終了し、官能試験まで冷凍保存した。冷凍肉は-1℃で12時間かけて解凍し、220℃に設定したホットプレートで表面60秒、裏面90秒加熱した。試料肉の提示温度は20℃とした。パネリストは、訓練された23名とした。「やわらかさ」「多汁性」「うま味」「脂の広がり」「脂の残留度」「脂っぽい香り」「肉様の香り」の評価項目について8段階評点法で行った。また、チルドおよび氷温熟成豚肉のどちらが好みであるか嗜好型官能評価も併せて実施した。パネリストは提示された豚肉が処理方法は分からない状態で官能評価を行った。 嗜好型官能評価の結果を、7人はチルド熟成、16人は氷温熟成の豚肉を選択した。二項検定を行ったところp値 = 0.047となり、統計的有意に氷温熟成処理した豚肉が好まれた。 分析型官能評価の結果では、氷温熟成豚肉は脂の広がりが良い、また脂っぽい香りが強いと評価された。これまで氷温熟成処理豚肉において、皮下脂肪部の脂肪融点が低下することが報告されていることから、本結果は脂肪融点の低下が関与している可能性がある。また統計的有意差はなかったが、咀嚼時のやわらかさにおいて、氷温熟成豚肉でやわらかい傾向が確認された(p = 0.08)。 今年度の結果から、氷温熟成処理した豚肉はチルド熟成と比較し、脂の広がりと脂っぽい香りが強くなり、ヒトに好まれる食味に変化することが考えられる。
|