• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2015 年度 実施状況報告書

栄養状態で変化する生体膜脂肪酸の生理学的意義

研究課題

研究課題/領域番号 15K16203
研究機関お茶の水女子大学

研究代表者

市 育代  お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (50403316)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワード必須脂肪酸 / 脂肪滴 / リン脂質 / 多価不飽和脂肪酸
研究実績の概要

脂肪酸は生体内における重要なエネルギー源であり、生体膜の主要な構成成分である。生体膜を構成しているリン脂質には様々な脂肪酸が結合しており、この脂肪酸の多様性は膜の流動性だけでなく、膜タンパク質の局在や細胞機能に影響を及ぼすことが指摘されている。栄養状態によって生体膜の脂肪酸鎖は変化することが知られているが、その変化が細胞機能にもたらす影響はよく分かっていない。そこで本研究では、脂肪酸の過剰及び欠乏によって変化する生体膜脂肪酸が持つ生理学的意義を明らかにする。
脂肪細胞は脂肪酸が中性脂肪となって脂肪滴に蓄積され、脂肪滴自身の肥大化がみられる。そこで、栄養過剰のモデルとして脂肪蓄積に伴う脂肪滴サイズの変化に着目し、肥大化脂肪滴に特徴的な脂質組成を明らかにすることで、その脂質組成が脂肪蓄積においてどのような意義を持つか検討を行う。また、必須脂肪酸欠乏時にはミード酸(C20:3n-9)という脂肪酸がオレイン酸から産生されるが、我々はオレイン酸からミード酸の産生遺伝子とその経路を明らかにしている(Biochim. Biophys. Acta., 2014)。そこで、栄養欠乏のモデルとして、必須脂肪酸欠乏時のミード酸がどのような制御機構で産生されるかを明らかにする。また、必須脂肪酸のミード酸は生体膜のホスファチジルイノシトールというリン脂質で顕著に増加することことから、ミード酸のリン脂質における必要性とともに、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の生理作用について検討を行う。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

① 脂肪滴膜の脂肪酸鎖と脂肪滴肥大化との関連性
本研究では、脂肪蓄積に伴う脂肪滴サイズの変化に着目し、肥大化脂肪滴に特徴的な脂質組成を明らかにし、その組成が脂肪蓄積においてどのような意義を持つか検討を行った。まず、大型脂肪滴に特徴的な脂質組成が、大型脂肪滴の形成に有利な物理的性質をもたらすかについて調べた。脂肪酸を添加すると脂肪滴を形成するNIH3T3細胞に、脂肪滴同士の融合を促進するFSP27を過剰発現させ、大型脂肪滴を形成するFSP27安定発現細胞を作製した。それぞれの細胞の脂肪滴から脂質を抽出し、その脂質抽出物を用いて試験管内でエマルションを再構成させる方法を試みた。すると、FSP27安定発現細胞の脂質抽出物からは大型のエマルションが再構成され 、脂肪滴を構成する脂質そのものの生物物理的性質が、大型脂肪滴形成に寄与していることが示唆された。そこで、リン脂質の脂肪酸の不飽和度の違いがエマルション形成に与える影響を調べた。不飽和度の異なるリン脂質とトリグリセリドを混合して脂肪滴様エマルションを形成させると、飽和脂肪酸が結合したリン脂質を用いた際に大型の脂肪滴が観察された。したがって、リン脂質の飽和脂肪酸は大型脂肪滴の形成あるいは安定化に必要であることが示唆された。
② 必須脂肪酸欠乏時に産生されるミード酸の産生制御機構と生理作用
我々は必須脂肪酸欠乏時にオレイン酸から産生されるミード酸の産生遺伝子を報告している。その中で、ミード酸の産生遺伝子である脂肪酸鎖長伸長酵素Elovl5は、多価不飽和脂肪酸存在下でオレイン酸に対する活性が消失し、その結果ミード酸の顕著な減少がみられた。そして、多価不飽和脂肪酸存在下ではElovl5のタンパク質にリン酸化が生じていた。したがって、必須脂肪酸欠乏時にはリン酸化Elovl5が減少することで、オレイン酸に対して活性を生じ、ミード酸が産生されることが示唆された。

今後の研究の推進方策

①脂肪滴膜の脂肪酸鎖と脂肪滴肥大化との関連性
in vitroの実験で得られた脂肪滴膜のリン脂質における脂肪酸と脂肪滴サイズとの関係が生体でもみられるか検討する。肥満マウス及び通常マウスの白色脂肪組織からプライマリーを作製し、それぞれの細胞の脂肪滴サイズと脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成の比較を行い、in vitroの現象が生体内でも同様にみられるか確認する。また、脂肪滴膜のリン脂質の脂肪酸組成が膜タンパク質の局在にも影響を及ぼすか検討を行う。in vitroの実験で得られた結果を元に、不飽和度の異なる脂肪酸が結合したリン脂質を用いて脂肪滴様エマルションを作製し、脂肪蓄積に関わる膜タンパク質Perilipi1の局在が脂肪酸の不飽和度の影響を受けるか調べる。これらの研究によって、脂肪滴一重膜における脂肪酸鎖が持つ生物学的意義を明らかにする。
②必須脂肪酸欠乏時に産生されるミード酸の産生制御機構と生理作用
必須脂肪酸欠乏時におけるミード酸の産生に、Elovl5のリン酸化が関わっていることを明らかにすることで、必須脂肪酸欠乏時の脂肪酸代謝の新たな制御機構を提示する。また、ミード酸の産生遺伝子のノックアウトマウスや阻害剤を用いて、必須脂肪酸欠乏時にミード酸の産生を抑制した際の生体への影響を調べることで、必須脂肪酸欠乏時にミード酸が産生される生理的意義を明らかにする。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] TTC39B Deficiency Stabilizes LXR Leading to Decreased Atherosclerosis and Hepatic Steatosis2016

    • 著者名/発表者名
      Masahiro Koseki, Joanne Hsieh1, Matthew M. Molusky, Emi Yakushiji, Ikuyo Ichi, Marit Westerterp, Sandra Abramowicz, Liana Tascau, Carrie B. Welch, Jahangir Iqbal, Shunichi Takiguchi, Shizuya Yamashita, M. Mahmood Hussain, Daniel J. Rader, and Alan R. Tall1
    • 雑誌名

      Nature

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      in press

    • 査読あり / 国際共著 / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 必須脂肪酸欠乏の脂肪酸代謝と調節機構2016

    • 著者名/発表者名
      市 育代
    • 学会等名
      第19回日本病態栄養学会
    • 発表場所
      神奈川県・横浜市
    • 年月日
      2016-01-09 – 2016-01-10
    • 招待講演
  • [学会発表] 脂肪滴における中性脂肪およびリン脂質の脂肪酸組成と脂肪滴サイズの関連性2015

    • 著者名/発表者名
      有澤琴子, 市 育代, 満留悠,藤原葉子
    • 学会等名
      BMB2015
    • 発表場所
      兵庫県・神戸市
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-04
  • [学会発表] 酸化ステロールの骨格筋細胞における糖代謝への影響2015

    • 著者名/発表者名
      柳本彩,市 育代,藤原葉子
    • 学会等名
      BMB2015
    • 発表場所
      兵庫県・神戸市
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-04
  • [学会発表] 必須脂肪酸欠乏における皮膚炎症とミード酸産生遺伝子との関連性2015

    • 著者名/発表者名
      多田萌, 市 育代,藤原葉子
    • 学会等名
      BMB2015
    • 発表場所
      兵庫県・神戸市
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-04
  • [学会発表] ステント留置後の冠動脈疾患患者におけるエゼチミブの血清酸化コレステロールの減少作用2015

    • 著者名/発表者名
      市 育代,藤原葉子
    • 学会等名
      第37回日本臨床栄養学会総会
    • 発表場所
      東京都・千代田区
    • 年月日
      2015-10-02 – 2015-10-04
  • [学会発表] 脂肪酸鎖長伸長酵素Elovl5の多価不飽和脂肪酸による伸長活性の変化2015

    • 著者名/発表者名
      市 育代、山野美怜、藤原葉子
    • 学会等名
      日本ビタミン学会代67回大会
    • 発表場所
      奈良県・奈良市
    • 年月日
      2015-06-17 – 2015-06-18
  • [学会発表] 食品に含まれるステロールと動脈硬化について2015

    • 著者名/発表者名
      市 育代
    • 学会等名
      第15回日本抗加齢医学会総会
    • 発表場所
      福岡県・福岡市
    • 年月日
      2015-05-29 – 2015-05-31
    • 招待講演
  • [学会発表] Ezetimibe, a cholesterol absorption inhibitor, reduces serum oxysterol in patients with coronary artery undergoing stent placement2015

    • 著者名/発表者名
      Aya Yanagimoto, Ikuyo Ichi, Sakie Igarashi, Tetsuya Matoba, Susumu Takase, Kensuke Egashira and Yoko Fujiwara
    • 学会等名
      ACN2015 12th Asian Congress of Nutrition
    • 発表場所
      神奈川県・横浜市
    • 年月日
      2015-05-14 – 2015-05-18
    • 国際学会
  • [図書] 新スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学2015

    • 著者名/発表者名
      池田彩子、鈴木恵美子、背山洋右、野口忠、藤原葉子
    • 総ページ数
      10
    • 出版者
      東京化学同人

URL: 

公開日: 2017-01-06  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi