近年罹患者が増加しつつある、アルコールに依存しない食事性脂肪肝は、肝がんや肝不全のリスクファクターとなる。栄養過多や運動不足により食事性脂肪肝が発症することは知られているが、発症過程における詳細な分子メカニズムについてはいまだ不明な点が多い。そこで本研究は、ユビキチンリガーゼCbl-b による小胞体-ミトコンドリア連関調節が、小胞体ストレスを介して食事性脂肪肝を抑制することを明らかにすることを目的とした。平成29年度においては以下のような実験結果が得られた。 長鎖飽和脂肪酸はCbl-bのタンパク質量を増加させる。当初、肝細胞において食事由来の長鎖飽和脂肪酸がCbl-bタンパク質量を減少させ、脂肪肝の引き金となると仮説を立てた。しかし、平成29年度の実験より、マウスの肝臓や肝細胞、マクロファージにおいて長鎖飽和脂肪酸はCbl-bのタンパク質量を増加させることが明らかとなった。このタンパク質量の増加には、Cbl-b mRNAの転写が促進されることが必要であることも見出した。これらのことから、食事性脂肪肝においてCbl-bはタンパク質量よりもその酵素活性の調節の方が肝臓への脂肪蓄積に重要であることが示唆された。そこで、長鎖飽和脂肪酸を添加した肝細胞を用いて、Cbl-bの翻訳語修飾(リン酸化・ユビキチン化)について検討を行ったが、Cbl-bの酵素活性調節の詳細は明らかにできなかった。 今年度得られた結果より、食事性脂肪肝の発症抑制にはCbl-bのタンパク質量よりも酵素活性の制御の方が有効であることが考えられた。
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