小腸吸収上皮細胞における遺伝子発現は、摂取する栄養素のシグナルによって調節を受けることが知られている。これまでに我々は、食事中の糖質の量や質に応答して発現変動する遺伝子の調節にはその遺伝子周辺のヒストン修飾が関与していることを明らかにしてきた。本研究では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を持つ酪酸が、低栄養によって消化管機能が低下したモデル動物において、二糖類水解酵素をはじめとする小腸糖質消化吸収関連遺伝子の発現を増大させるかを検証した。 絶食後のラットに5%酪酸ナトリウムを添加した食餌を再摂食させると、対照食の再摂食と比較して、12時間後と24時間後における空腸・回腸重量、小腸吸収上皮細胞に特徴的な核内転写因子およびヒストンアセチル化酵素のmRNA発現量は変わらなかったが、スクラーゼ・イソマルターゼ複合体(Si)とラクターゼ・フロリジン水解酵素(Lph)のmRNA発現量が増大していた。Si遺伝子周辺のヒストンアセチル化レベルおよび転写共役因子の結合量を調べたところ、Si転写領域のヒストンH3のアセチル化レベルとRNAポリメラーゼⅡをリン酸化するCDK9の結合量が、酪酸添加によって高まっていることが確認された。酪酸は、Si遺伝子周辺のヒストンアセチル化を高め、転写伸長反応を促進することにより遺伝子発現を増大させることが示唆された。
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