現代の日本における健康問題として、低血圧を伴う貧血や高血圧が挙げられる。一方で、日本人の全世代を通して亜鉛の摂取不足という栄養問題も重要な課題である。また、亜鉛の摂取不足では一般的に食事量の減少を伴う。これまで、亜鉛欠乏と食事量の減少の2要因が造血機構にどのように影響を与えているのかを動物モデルを用いて検討している。 平成30年度は、造血機構への影響を調べるためにHIF1a、HIF1an、HIF3a遺伝子発現について検討した。SD系雄性ラットを用いて、各群あたり10匹ずつになるように、対照群、中等度亜鉛欠乏群、pair-fed対照群の3群に群別して4週間飼育し、解剖時に腎臓を皮質と髄質に分けて保存していたものを測定のサンプルに用いた。Quantitative-RT-PCRで分析したデータはGrubbs testで棄却検定を行った後、Kruskal-Wallis検定後、Conover-Iman検定により群間比較を行なった。データに正規性があり、等分散性が認められる場合にはANOVA後に、PLSDにより群間比較を行い、等分散性が認められない場合にはANOVA後に、Separate Variance PLSDにより群間比較を行った。危険率は5%未満を有意とした。今回のデータ解析の結果、髄質のHIF1a、HIF1anの対組織重量比は、亜鉛欠乏および食餌摂取量の低下の2要因のいずれにおいても対照群に比べて有意に減少していた。髄質のHIF3aと皮質のHIF1a、HIF1an、HIF3aの対組織重量比は、いずれの群間においても有意な差は見られなかった。以上の結果から、亜鉛欠乏での造血障害と長期的な食餌量の低下によって生じる造血障害の発生機序において、これらの遺伝子の差異が影響している可能性は低いことが示唆された。
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