近年、COPDをはじめとする呼吸器疾患は、肺や気管の単なる炎症ではなく全身性の炎症として捉えられており、これを抑制することで、呼吸疾患患者の病態や日常生活動作(ADL)が改善することが期待されている。この全身性炎症は、低酸素により安定化する低酸素誘導因子HIF-αによって惹起されると考えられている。 しかし、呼吸器疾患における「全身性炎症」は言葉だけが一人歩きしている感があり、全身性の炎症が一体どこの臓器でどのように生じているのか、については全く報告がない。 そこで本研究では、低酸素によって惹起される炎症の程度を、肝臓や脳などの臓器別に明らかにすること第一の目的とした。さらに、近年、炎症抑制作用が報告されているクエン酸が、それぞれの臓器の炎症にどの程度の抑制効果を発揮するのかについて検証することを第二の目的とした。 結果、2時間および6時間の低酸素曝露(酸素濃度10.5%)は、ラットの脳、肝臓、骨格筋、肺において、炎症を惹起しないことが、mRNA発現レベルで示された。また、クエン酸摂取は、各臓器において明確は炎症抑制効果は示さなかった。 以上より、比較的短期間の低酸素曝露そのものは各臓器における炎症の惹起に関与しないこと、すなわち呼吸器疾患患者の作業時における短期間の低酸素状態そのものは全身性炎症を誘導しない可能性が示された。一方で、酸素濃度のゆらぎが各臓器の炎症に及ぼす影響については、今後検討を進める必要がある。
|