研究実績の概要 |
生活習慣病のような長期エネルギー代謝は主に転写レベルで調節され、上流で制御する転写因子の役割が重要である。本研究は、食事によって活性が著明に変動する脂質合成制御転写因子Sterol regulatory element-binding protein (SREBP)-1 の、非アルコール性脂肪性肝炎における病態生理学的役割について、SREBP-1KO マウスを用いて解明する事を目的とする。本年度は、昨年度肝培養細胞を用いたRNA-Seq解析で抽出された、SREBP-1の有無で変動が大きかった遺伝子がSREBP-1の新規ターゲット遺伝子となり得るかを、ノックダウンによる発現変動の再現性、過剰発現系による遺伝子発現変化、NASH病態の肝臓における発現変動ならびに発現細胞の精査を行った。
SREBP-1の新規ターゲットとして抽出されたいくつかの遺伝子のうち、再現性の検討から遺伝子Xに絞り込んだ。これをHepG2またはHEK293細胞を用いて、SREBP-1ノックダウンまたはSREBP-1a, SREBP-1c過剰発現系に供した。その結果、SREBP-1cではなくSREBP-1a過剰発現時に著明に遺伝子発現が誘導され、新規ターゲット遺伝子Xは、SREBP-1aが司っている可能性が示唆された。また、この遺伝子は小胞体ストレス時に著明に上昇し、SREBP-1ノックダウンで発現誘導が抑制されることが明らかとなった。さらに、NASH病態における遺伝子Xの役割を検討するため、改変コリン欠乏メチオニン低減アミノ酸食によるマウスにおけるNASH病態の肝臓において、発現変化を検討した。その結果、遺伝子Xの発現は単純性脂肪肝では変化が無く、NASH病態で著明に上昇し、それらは非実質細胞に発現していることが免疫染色の検討により明らかとなり、NASH病態の形成に関わっている可能性が示唆された。
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