研究課題/領域番号 |
15K16220
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
田中 理恵子 神奈川工科大学, 応用バイオ科学部, 助教 (80579962)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ベージュ脂肪細胞 / ビタミンE / PGC-1α / UCP1 / Irisin |
研究実績の概要 |
本研究では、ビタミンEがベージュ脂肪細胞の分化と機能に与える影響について検討を行っている。2016年度は、代表的なビタミンE同族体であるα-トコフェロールが、マウスの白色脂肪細胞(3T3-L1細胞)とラットの白色脂肪組織において転写補因子PGC-1αの発現を誘導し、ベージュ脂肪細胞の分化を促進する事を報告した(Journal of Oleo Science, 66(2), 171-179)。また、ベージュ脂肪細胞の分化を促進するホルモンであるIrisinの分泌に対する影響についても検討を行ったが、α-トコフェロールはマウス骨格筋細胞とラットの骨格筋組織の両方において、Irisinの発現量に影響を与えなかった。 ビタミンE同族体ごとの効果を細胞レベルで比較した結果、δ-トコフェロールが熱産生関連遺伝子であるUCP1やPGC-1αの発現を顕著に誘導する事が明らかとなったため、以降はδ -トコフェロールの効果を中心に検討を進めた。PGC-1αは活性化する事で核内へと移行し、転写調節を行う転写因子である。2015年度に、δ-トコフェロールを添加した3T3-L1細胞ではPGC-1αの核移行が亢進することを見出しており、δ-トコフェロールがPGC-1αの活性化を促進する可能性が示唆された。そこでPGC-1αの上流因子となるリン酸化酵素の活性化状態を検討した結果、δ-トコフェロールがp38 MAPKの活性化を亢進する可能性を見出した。現在はPGC-1αの活性化機構について、さらに詳細な検討を行っている。また、高脂肪食負荷による肥満モデルマウスに対してδ-トコフェロールを摂取させ、ベージュ脂肪細胞の分化促進効果と肥満抑制効果について検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画の通り、高脂肪食負荷による肥満モデルラットにおいて、α-トコフェロールの摂取がベージュ脂肪細胞の分化を促進するか検討した。その結果、α-トコフェロールを摂取したラットの鼠蹊部皮下脂肪組織では、ベージュ脂肪細胞関連遺伝子の発現が増加していた。さらに病理組織学的検査の結果から、腎周囲脂肪組織においてもベージュ脂肪細胞の分化が促進する可能性が示唆された。しかしながら、8週間の飼育では体重増加と脂肪組織重量の増加に対しては抑制効果が見られなかった。また、2017年度に行う予定であったIrisin分泌に対する影響についても、前倒しで検討を行った。その結果、α-トコフェロールはマウス骨格筋細胞(C2C12細胞)とラットの骨格筋組織の両方において、Irisinの発現量に影響を与えなかった。 In vitroにおいて、δ-体のビタミンEは最も強くUCP1やPGC-1αの発現を誘導し、PGC-1αの活性化(核移行)を亢進する。PGC-1αを活性化する主要なリン酸化酵素として、AMPKやp38 MAPKが同定されている。そこでこれらのリン酸化酵素の活性化型を蛍光免疫染色で検出した結果、δ-トコフェロールを添加した細胞では活性化型のp38 MAPKが顕著に増加していた。一方で、AMPKの活性には殆ど影響を与えない事を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度はδ-トコフェロールによるPGC-1αの活性化機構と、高肥満効果を中心に検討を進める。引き続き、細胞レベルでPGC-1αの上流因子(リン酸化酵素、脱アセチル化酵素など)に関する検討を進める。また、高脂肪食負荷による肥満マウスに対してδ-トコフェロールを摂取させ、体重推移、脂肪組織重量、血中脂質濃度、熱産生関連遺伝子や各種転写因子の発現量を測定し、ベージュ脂肪細胞の分化促進効果と肥満の抑制効果について検討する。また、HPLCによるマウス組織中のδ-トコフェロール定量法を確立し、δ-トコフェロールの生体内分布の解明を目指す。 これまでの結果から、α-トコフェロールは骨格筋細胞においてPGC-1αとIrisinの発現量に影響を与えない事が明らかとなった。一方で、δ-トコフェロールは骨格筋細胞においてもPGC-1αの遺伝子発現量を増加させるという示唆的なデータが得られた。そこでC2C12細胞とマウスの骨格筋組織において、δ-トコフェロールがPGC-1αの発現と活性化を促進し、Irisinの分泌量を増加させるか検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入において端数が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度消耗品購入費の一部に充てる。
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