研究課題/領域番号 |
15K16222
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
釘田 雅則 藤田保健衛生大学, 疾患モデル教育研究センター, 助教 (50440681)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 繊毛病 / 多発性嚢胞腎症 / ネフロン癆 / RXR |
研究実績の概要 |
繊毛病は繊毛の異常が原因で発症する病気であり、多数の腎嚢胞を有し、最終的には腎不全を引き起こすネフロン癆(NPHP)や多発性嚢胞腎症(PKD)が主なものとしてあげられる。申請者らは、NPHPモデル動物Cyラットの初期嚢胞腎を用いた遺伝子発現の網羅的解析により、リガンド依存的核内受容体retinoid X receptor(RXR)が嚢胞形成に関与することを示唆した。また、RXRのリガンドである9-cis retinoic acid(9cRA)は、ヒトPKD不死化細胞に対して増殖抑制効果を示した。9cRAはビタミンAの代謝産物であるため、これらの知見は栄養学的に繊毛病の病態を抑制できることを示唆している。そこで、ビタミンAを中心とした栄養素を用いて繊毛病の病態抑制効果を検証することとした。 9cRAによるヒトPKD不死化細胞の増殖抑制効率は約9%と低い。また、ビタミンAに含まれる9cRAも少量である。ビタミンAのみでは繊毛病に対して病態抑制効果を示さない可能性があるため、ビタミンAと併用できる栄養素の探索を行った。繊毛病に対する病態抑制効果が報告されているビタミンK3(人体に害を及ぼさないと考えられる低濃度)、癌細胞に対する病態抑制効果およびビタミンAとの相乗抑制効果が報告されているビタミンK2、ビタミンKの仲間であるビタミンK1についてヒトPKD不死化細胞の増殖抑制効果、ビタミンAとの相乗抑制効果を検証したが、いずれも効果を示さなかった。 ビタミンAの投与実験では、ヒトPKDの責任遺伝子PKD1とオーソロガスな遺伝子をコンディショナルノックアウト(CKO)したPKD1 CKOマウスを使用する予定である。本マウスは、病態誘発剤を投与後病態を発症するが、申請者らの解析では、肝臓には嚢胞が多数形成されるが、腎臓にはほとんど嚢胞が形成されなかった。そのため、病態誘発条件を検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
繊毛病は遺伝病であるため、根本的な治療は難しい。そこで、本研究は長期的な視野に立ち、栄養学的に繊毛病の病態進行を抑制することを目的としている。申請者らの研究成果と他の研究者らによる今までの報告により、繊毛病に対してビタミンAとビタミンKの相乗抑制効果が期待されたが、そのような効果は示されなかった。 繊毛病のモデル動物の責任遺伝子は、繊毛に関連するタンパク質を発現するが、そのタンパク質の機能が様々なため、病態や発症機序が微妙に異なる。その中で、投与実験に使用予定であるPKD1 CKOマウスは、ヒトPKDの責任遺伝子であるPKD1のオーソロガスな遺伝子をコンディショナルノックアウトしたマウスであり、ヒトPKDに対する薬剤の治療効果を検討する上で最も適したモデル動物の1つである。このマウスは、病態誘発剤の投与時期により病態進行速度が変わることが報告されている。そこで、病態誘発剤を生後1週齢と5週齢で投与し、病態進行速度が速いマウスと遅いマウスを作成した。しかしながら、どちらのマウスも腎臓にはほとんど病態を示さなかった。PKD1 CKOマウスの病態には、病態誘発剤の投与時期だけでなく、環境要因が関与していることも報告されており、病態誘発条件を再度検討する必要がある。 上記の結果を踏まえ、次年度では、ビタミンAの単独使用による繊毛病の病態抑制効果の検証を行うこととする。また、投与動物はNPHPのモデル動物であるpcyマウスを用いることにする。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトPKDでは、遠位尿細管から拡張すると考えられている。そこで、ビタミンAとその他の栄養素との細胞増殖に対する相乗抑制効果の検証は、遠位尿細管由来のヒトPKD不死化細胞を用いて行った。しかしながら、それらの効果は細胞依存的な可能性があるため、近位尿細管由来のヒトPKD不死化細胞を用いて同様の実験を行う。 ビタミンAと相乗抑制効果を示す栄養素が見つからない場合は、ビタミンA単独使用による繊毛病に対する病態抑制効果を検証する。しかしながら、細胞増殖抑制効果を示す9cRAのビタミンA中の含有量は少ないため、ビタミンAではなく9cRAを投与する。投与動物は、病態の進行速度が比較的緩やかであるNPHPモデル動物のpcyマウスを用いる。4週齢から20週齢まで9cRAを投与後、病態の指標である腎体重比、嚢胞面積、線維化領域、血清尿素窒素量の解析を行う。 PKD1 CKOマウスは病態誘発条件を再検討する必要がある。病態誘発後、病態とRXRの関連性について解析する。その後、可能であれば投与実験に用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、ヒトPKD不死化細胞を用いてビタミンAとビタミンKを始めとする栄養素との相乗抑制効果の検証、およびPKD1 CKOの病態とRXRの関連性を検証後、NPHPモデル動物であるpcyマウスおよびPKDモデル動物であるPKD1 CKOマウスにビタミンAおよびビタミンKの単独および併用投与を行い、繊毛病に対する病態抑制効果を検証する予定であった。しかしながら、ビタミンAと相乗抑制効果を示す栄養素が見つからず、また、PKD1 CKOマウスの腎臓に病態が誘発されなかったため、本年度予定していた動物への投与実験が行えなかった。そのため、動物の飼育費用、投与薬剤費などが次年度に繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、近位尿細管由来のヒトPKD細胞を用いて、ビタミンAやビタミンKを始めとする栄養素の細胞増殖抑制効果を検証する。PKD1 CKOマウスは投与時期だけでなく、投与濃度などの検証を行い、病態誘発条件を確定させる。9cRA単独でも弱いながら細胞増殖抑制効果が示されているため、NPHPのモデル動物であるpcyマウスを用いて、9cRAによる病態抑制効果の検証を行う。また、得られた成果は学会などで発表を行い、その成果を社会・国民に随時発信する。
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