多発性嚢胞腎症(PKD)やネフロン癆(NPHP)など腎臓に多数の嚢胞ができる疾患の原因として、繊毛の異常があげられる。そのため、それらの疾患は総称して繊毛病と呼ばれている。申請者らは、今までの研究により複数のNPHPモデル動物およびPKD不死化細胞において、嚢胞形成にretinoid X receptor (RXR) が関与していること、RXRがリン酸化されていること、PKD不死化細胞において、RXRのリガンドであり、ビタミンAの代謝産物である9-cis retinoic acid(9cRA) が細胞増殖を抑制することを新知見として得ている。 繊毛病は遺伝病であるため、その治療には長期的な視野に立つ必要がある。そこで、申請者らは上記知見を基に、ビタミンAによるPKDの栄養学的治療の検証を行った。NPHPモデル動物に4週齢から20週齢まで、一般飼育飼料(CONT)と一般飼育飼料の3倍量のビタミンAを添加した飼料(VA3)をそれぞれ与え、病態比較を行った。しかしながら、CONTとVA3において、腎臓の病態指標になる腎重量/体重比および血清尿素窒素量に有為な差は見られなかった。 複数のNPHPモデル動物およびPKD不死化細胞において、RXRの関与が示唆されていることから、繊毛病においてRXRは重要な役割を担っていると考えられる。ビタミンAに含まれる9cRAは微量であり、RXRに対する作用効果は低いと考えられる。そのため、NPHPの病態抑制に効果を示さなかった可能性がある。そこで、RXRのリガンドではなく、より強く作用するRXRのアゴニストに繊毛病に対する治療効果を期待する。
|