研究実績の概要 |
本研究の目的は,ビタミンB1欠乏が骨格筋の重量や機能(筋力や疲労耐性)に及ぼす影響をその機序も含めて明らかにすることである.平成29年度は,ビタミンB1欠乏により骨格筋の疲労耐性が低下するかどうかと,その機序について検討を行った. 7週齢のWistar系雄性ラットを,1週間の予備飼育の後,対照群と欠乏群に分類し,対照群には6.0 mg/kgの,欠乏群には0.5 mg/kgのチアミン塩酸塩を含む飼料を3週間摂取させた.飼育期間終了後,麻酔下において,片脚の腓腹筋の皮膚表面に電極を貼り付け,2秒毎に1回の疲労性刺激 (100 Hz, 200 ms train, 15 V) を5分間,計150回負荷し,その際の足底屈筋力を測定した.収縮終了直後に,収縮脚と安静脚から腓腹筋を摘出し,筋中乳酸濃度と筋グリコーゲン濃度を測定した.また,収縮の前後に尾静脈より採取した血液を用い,血中乳酸濃度を測定した.対照群に比べ欠乏群では,5分間の疲労性刺激により,足底屈筋力がより早く低下することが認められた.血中および腓腹筋深層部の乳酸濃度は,欠乏群においてのみ,収縮後に増加が認められた.また,腓腹筋深層部の筋グリコーゲン濃度も,欠乏群でのみ収縮後に低下がみられた.これらの結果は,ビタミンB1欠乏により,筋グリコーゲンの早期枯渇が起こりやすくなり,筋疲労耐性が低下することを示唆するものである. 本研究課題では,成長期におけるビタミンB1欠乏状態の継続が,1) 筋重量の増加を抑制する可能性があること,2) 固有筋力には影響しないこと,3) 筋疲労耐性を低下させることが明らかとなった.今後はビタミンB1欠乏が高齢動物や糖尿病動物における筋萎縮に及ぼす影響や,ビタミンB1欠乏が全身持久力に及ぼす影響を明らかにすることで,ビタミンB1摂取の重要性を示す更なる根拠を示すことができると考えられる.
|