大腸がん細胞DLD-1のスフェロイド培養系を用いてケミカルライブラリによる選抜をおこなった。昨年度までの研究により、25-HCのアポトーシス誘導作用を阻害する分子のひとつとして、ポリアミン合成の律速酵素オルニチンデカルボキシラーゼの阻害剤Difluoromethylornithine(DFMO)を選抜していた。DFMOは単独での細胞死誘導効果がおおきいため、ポリアミン合成系に絞ってさらなる標的を探索したところ、ポリアミン合成系の下流に位置するスペルミン合成反応の阻害剤であるN-(3-Aminopropyl)cyclohexylamineAPCHAが、単独でのアポトーシスはほぼ誘導せず25-HCのアポトーシス誘導作用を阻害することを発見した。さらに、このときAPCHA処理によって、コレステロール合成の律速酵素であるSREBP2の発現量および活性化量が濃度依存的に増大していることを発見した。また、ルシフェラーゼをもちいた転写活性の測定をおこない、APCHAによって、SREBP2が結合して転写誘導をおこなうステロール応答配列(SRE)が応答することを確認した。SREBP2の活性化酵素であるSite-1プロテアーゼを阻害したところ、25-HC誘導性アポトーシス誘導作用のポリアミン合成阻害によるレスキュー作用は消失した。すなわち、細胞内ポリアミン類の変動(スペルミン/スペルミジン比の低下)がコレステロール合成を活性化させ、25-HCの効果が相対的に減少すると考えられた。これらのことはポリアミン代謝とコレステロール代謝が協調して、癌細胞の足場非依存的増殖に影響を与えている可能性を示唆している。
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