研究課題/領域番号 |
15K16234
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
遠藤 弘史 滋賀県立大学, 人間文化学部, 助教 (30567912)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレス蛋白質 / 癌細胞増殖抑制 |
研究実績の概要 |
細胞の持つ恒常性を維持するために重要な役割を担っている分子として,ストレス蛋白質が知られている.ストレス蛋白質であるHsp70やHsp90や,14-3-3蛋白質は通常は熱やウイルス感染などの細胞死誘導ストレスよってその発現が増強して,細胞保護する働きが知られている.一方で癌細胞は正常細胞と比較してこれらストレス蛋白質の発現が増加しており,このことが癌細胞の著しい増殖能や,癌化学療法に対する耐性獲得の一因であると考えられている. 一方で様々な食成分に抗癌活性あることが報告されているが,その詳細な分子メカニズムは明らかでない.我々はこれまでに肺癌細胞株A549を用いて,これらストレス蛋白質の発現を抑制することが癌細胞の増殖を抑制する重要なポイントであることを見出してきた.この事より,癌の発症を抑制することが報告されている食成分がストレス蛋白質の発現に影響を与えるのではないかと考えて研究を行った.その結果,ポリフェノール類のレスベラトロールはHsp90の発現を抑制することで,p53-p21経路を活性化して癌細胞の細胞周期を停止させている事や,カプサイシンはHsp70とHsp90の発現を抑制して,G2期に必須の細胞周期制御タンパク質であるCDK1の不活性化を引き起こしていることをなどを見出している.さらに過剰発現ベクターを用いたストレス蛋白質の過剰発現細胞を用いた解析を行うための,ベクターの入手とその増幅および生成を行った.これによりさらなるストレス蛋白質の癌細胞における増悪化作用の解析を行っている. 現在まで,以上のことについて学会報告を行い,論文投稿に向けて準備を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として,抗腫瘍効果を有する食成分がどのような細胞内機序で癌細胞の増殖を抑制しているのかを,癌細胞で発現増加が注目されているストレス蛋白質に焦点を当てて解析すること,また,これら食成分の効果がマウスを用いた実験でも確認できるかを明らかにすることである. 本年度までの研究で,レスベラトロールはHsp90の発現を抑制することで,通常プロテオソームで分解されていたp53が機能し,癌細胞周期停止を引き起こしていること.カプサイシンはHsp70とHsp90の発現を同時に抑制することでCDK1の核外移行と分解を惹起し,G2期での細胞周期停止を引き起こすこと.また,ヘスペレチンはBadやBaxのミトコンドリア移行を促進し,細胞死を引き起こしており,この時,その細胞死抑制因子であるHsp70の発現を抑制していることを見出した. これらの食成分の抗腫瘍活性をin vivoで検討するためのマウスを用いた実験系の立ち上げに着手している.
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今後の研究の推進方策 |
食成分による癌細胞増殖抑制効果については,C57B6マウスの尾静脈よりマウス由来Lewis Lung Carcinoma(LLC)を投与して,肺に癌病変の作成を行う最終条件検討をおこなう.これまでの当研究で見出した癌増殖効果の細胞内機序が明らかとなった食成分をあらかじめ投与することで,マウスの肺における癌病変の数が減少するか,また生存率は回復するか等を検討する.この時,肺病変をサンプルとして,in vivoでも当研究者が見出したストレス蛋白質発現抑制効果があるかの検討も同時に行う予定である. 一方のin vitroにおいても,さらなる解析を行うためにストレス蛋白質の発現ベクターを用いた過剰発現系による評価を進める.現在まで,目的の発現ベクターは入手しておりその効果の検討をおこなっていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養用のCO2インキュベータの故障という不測の事態に対応したことにより,年度末近くに消耗品費のための前倒し支払い請求を行った.しかしながら,予定通りの使用から7475円は予定よりもかからなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画通りに当該年度の試薬や実験消耗品を購入するための物品費として使用する.
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