本年度は、比較優位にもとづく貿易利益の仕組みを体験的に学習できるゲーム用いた実験を行った。ある程度抽象的な思考が可能でかつ経済取引の経験があまりない年齢層として、中学校1年生を対象に2時間の授業を行い、ゲームの効果を検証した。ゲームに情報の非対称性を取り入れ、協力行動による利益をフィードバックした結果、「利己主義的人間観」因子の平均値が、ゲーム前と比較して優位に低下した。内容理解は、グループ学習では十分なものの、個人では不十分なケースが見られた。不正解者の分析より、1グループあたりの人数を5人以下にする方が良いこと、得意を持たないチームに所属した生徒は取引利益の理解が困難であることが示唆された。 中学1年生の実験において、グループの理解は、第1ステップの説明後に実施した第2ステップにおいて、12班が全て特化の状態に到達した。個人の理解は、事前テストと事後テストにおいて、「ばあた」の数値関係を把握する計算問題は、すべての生徒が正解した。グループ学習であれば、中学1年生でも比較優位の構造を理解できることが示唆された。 中学生を対象とした体験ゲームの実験の中で、協調的問題解決と人的ネットワークの形成に関して新たな課題が見つかった。そこで、研究3としてスラックラインを用いた協調的問題解決課題を初年次教育に応用する研究を行い、次に研究3として人的ネットワークの形成に関する計量分析を行う手法を開発し、大学生を対象として実験を行った。ネットワークの中心性に着目し、中心性の強い学生がその後も中心性を増していくとする「マタイの法則」について検証したところ、半期の授業内では中心性の高い学生がその後の中心性の指標が高くなることが分かった。
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