研究課題/領域番号 |
15K16271
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 宏文 東京工業大学, 国際教育研究協働機構, 特任准教授 (30573050)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 科学史 / ソ連史 / 生物学 / 遺伝学 / 教育 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、国内の大学図書館が所蔵するロシア語の二次文献を精査し、1965年から始まる生物学教育の正常化に向けた初期の動向を確認した。具体的には、1965年3月にモスクワ大学で大規模に開催された生物学教師のための遺伝学セミナーの様子や、1965年秋に制定された一般生物学の中等・高等学校向け新プログラム(カリキュラム)の内容、生物学の教授法の改善に関する議論の様子等を確認できた。 ロシアにおける現地調査では、モスクワ大学の生物学部図書室にて1965年以降の学位論文のタイトル、遺伝・育種学科の編年史、および生物学部の卒業生の回想録を確認し、生物学教育の復興期の大学の様子を確認できた。同時に、ロシア連邦国立文書館の未刊行資料から、上記の新プログラムの内容が、生物学者や教育学者で構成される科目委員会の討議を経て完成されていく様子を明らかにできた。その後、このプログラムは高等教育省にて承認され、ロシア全体に適用されたのだが、特に遺伝学の授業が20年間近く行われてこなかったロシアでは、一般の教師が新プログラムに沿った授業を実際に行うに当たり、様々な困難を抱えていたことの事例の一端が文書館史料から判明した。このことから、本課題で掲げた仮説、すなわち、ロシアにおける生物学教育の正常化計画は、ルィセンコ失脚後必ずしも順調に進行したのでなかったこと、とりわけ代表的生物学者や行政側が作成した新プログラムが、実際の教育現場では時として実施困難であった事実を裏付けることができた。 対外的には、国際中欧・東欧研究協議会第9回世界大会でパネルを組織し、本課題に関する報告を行った。大会期間中、ソ連生物学史の専門家のアメリカ人研究者を招聘して意見交換を行い、本課題について有意義な助言を得られた。この国際会議の報告内容は、日本科学史学会の欧文誌Historia Scientiarumに投稿済である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度の研究実施計画に記載した内容については、滞りなく実施できたと考えられる。国内外の大学図書室、およびロシアの文書館にて、実施計画に記した文献や未刊行資料を発見・閲覧できたこと、それらの文献資料により生物学の正常化過程を歴史的に再構成するために不可欠な知見を得られたことから、現在までの課題の進捗状況はおおむね順調と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ロシアの文書館に赴き、27年度の出張時に閲覧しきれなかった未刊行資料の調査に取り掛かる。特に、教育科学アカデミーの幹部会にて新規生物学プログラム内容の承認が最終的に行われた過程を詳細に明らかにしたい。 また、モスクワのような中心都市の大学や教育機関における正常化の状況だけでなく、比較のため、地方都市の事例調査にも、可能な限り取り組む予定である。 対外的には、日本科学史学会の年次大会やロシア・東欧地域研究に関係する学会で成果報告を行う。また年一回を目途に国際会議に出席し、海外の研究者との意見交換を通じて、本課題の歴史研究としての客観性・中立性を高めていく。特にロシア人の生物学教授法の専門家との直接の意見交換を今後予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の未使用額(14,983円)については、当初学術書の購入に用いる予定のものであったが、当該学術書の発売が年度末であったため、学内の使用ルールに則って27年度中の購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
学術書の購入(物品費)に使用する。
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