平成29年度は、前年度より引き続いて、現課題に関係する国内外の文献調査を継続すると共に、特に海外の研究者との継続的な協力体制の強化に注力した。2017年7月には、リオデジャネイロ連邦大学で開催された第25回国際科学史・技術史会議に参加して、ヴァヴィーロフ名称自然科学史・技術史研究所サンクトペテルブルク支所のS・シャリーモフ氏と共同でシンポジウムを組織し、ルィセンコ退陣後のロシアの生物学の復興をテーマに議論を交わした。研究代表者からは、これまで全く知られていなかった地方都市の高等教育機関における遺伝学授業の再開事例として、当面間に合わせの教材で授業が行われていた様子や、その土地出身の著名な生物学者がモスクワから自発的に特別講義に赴いていたこと等を詳しく報告した。この報告内容は既に英語でまとめており、ロシアの生物学史分野の一級雑誌『生物学史研究』に掲載される予定である。2017年10月には、国際共同研究の取り掛かりとして、サマーラ国立社会教育大学の生物学科長A・セミョーノフ氏を東京工業大学に招聘し、日本の科学技術史分野の研究者やその他を集めてセミナー報告「ロシアにおける生物学教育の歴史と現在」を行った。その内容を具体化した英語論文の共同執筆に取り掛かることを同氏と確認した。2018年2月にはロシアの学術機関に出張し、訪問先のサマーラ国立社会教育大学では、共同論文の執筆準備のため上記のA・セミョーノフ氏と現代ロシアの生物学教育におけるルィセンコ主義の残存度合について議論した。この内容を基に、1965年における生物学カリキュラムへの遺伝学の再導入から現代に至るまでのロシアの生物学教育の状況変遷を査読付雑誌に投稿する目途がたった。第二の訪問先のサンクトペテルブルク市では、科学アカデミー文書館にて遺伝学教育の復興に尽力した数名の生物学者についての調査を行い、現課題を補強する知見を得た。
|