高級アルコールをはじめとする保存薬剤を含浸させた遺跡出土木材の放射性炭素年代測定を目的とし、熱分解GC/MSを活用した前処理方法を検討した。 遺跡出土木材は木材中の水分が蒸発する際に変形収縮が生じるため、その恒久的保存を目的として薬剤含浸が行われる。用いられる薬剤は常温常圧下で安定な物質であるため遺物の形状をとどめるためには薬剤の含浸処理は必要不可欠である。しかし、薬剤は一般的に有機化合物であるため、保存処理は木材に対する炭素汚染と捉えることができる。木材に外来の炭素が加わると放射性炭素年代法による適切な年代測定が不可能となるため、年代測定に先立って薬剤を除去する必要がある。現在まで、除去が適切に行われたかを確認する手段が確立されていないため、熱分解GC/MSを用いた薬剤の検出が可能かを検証した。また、検出された薬剤を定量して年代補正が行えるかについても同時に検討した。 本研究に用いた保存薬剤はセチルアルコール及びステアリルアルコール、すなわち高級アルコールである。木材中の高級アルコールをGC/MSによって検出するため、熱分解装置としてキュリーポイント型パイロライザーをGC/MSに設置して使用した。高級アルコール由来の熱分解生成物は検出可能であったが、測定条件を統一してもパイログラムのピーク面積が安定せず、定量分析を実施することはできなかった。熱分解に用いた装置はキュリーポイント型のパイロライザーであったが、本装置では木材及び高級アルコールを安定して熱分解することが困難であることが示唆された。
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