研究課題/領域番号 |
15K16276
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研究機関 | ふじのくに地球環境史ミュージアム |
研究代表者 |
日下 宗一郎 ふじのくに地球環境史ミュージアム, 学芸課, 主任研究員 (70721330)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 年代測定 / 同位体 / 縄文時代 / 人骨 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,吉胡貝塚より出土した古人骨の歯のエナメル質の炭素同位体分析により,当時の幼少期の食性を調べた。その結果,海産資源に依存する割合が,骨コラーゲンの同位体分析による結果よりも,低かったことが明らかとなった。このことは,縄文時代にタンパク質源は海産資源に多く依存していたのに対して,エネルギー源は炭水化物を多く含む植物質食料に多く依存していたことを示唆する。この内容をまとめて論文を執筆し,American Journal of Physical Anthroplogyに投稿し受理された。 吉胡貝塚より出土した縄文時代人骨の海産物依存度の推定を行った。これは,当初アミノ酸窒素同位体分析により行うことを計画していたが,測定機器とその出力結果に問題が生じたことから,別の手法を検討した。そこで,骨コラーゲンと歯のエナメル質の炭素・窒素同位体比から,ベイズ推定による統計解析を行うことで,海産物依存度を推定することにした。食物の同位体比や統計パラメータの検討の結果,統計解析によって縄文人骨の海産物依存度を推定することが可能となった。 縄文人骨について放射性炭素年代測定を行った。骨コラーゲンからグラファイトを作成し,加速器質量分析装置を用いて,年代を測定した。その結果,縄文時代後期後半から晩期に帰属するという良好な結果が得られた。古人骨の場合,海洋リザーバー効果により,実際よりも古い年代を示すが,上述の海産物依存度の結果を考慮することで,較正した確からしい年代推定を行うことができた。 また,本年度の研究成果は,日本人類学会,日本考古学協会,総合地球環境学研究所同位体環境学シンポジウムなどで発表し,他の研究者と有意義な考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文を国際誌であるAmerican Jouranl of Physical Anthropologyに投稿し受理されたこと,放射性炭素年代測定を行ったことなどは進捗した点である。アミノ酸窒素同位体比測定による海産物依存度の推定の実施が難しい状況であったが,ベイズ推定による海産物依存度の推定手法を確立したことにより挽回した。今後,放射性炭素年代測定をする個体数を増やすことが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後,さらに個体数を増やして,40体ほど古人骨の放射性炭素年代測定を行う。その結果を日本人類学会にて発表するとともに,すみやかに論文にして公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はふじのくに地球環境史ミュージアムの開館の年であったため,科研費に対する予定通りのエフォートをさくことができなかった。このため,次年度に科研費を使用したほうが,より良い成果が出ると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については,放射性炭素年代測定を行うことで予算の執行を行う。また,平成28年度分についても,その予算の大部分を放射性炭素年代測定の費用として使い,残りは学会発表のための旅費や,論文出版のための英文校正のための費用として使う予定である。
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