(1)吉胡貝塚より出土した古人骨の歯のエナメル質の炭素同位体分析により,当時の幼少期の食性を調べた。その結果,海産資源に依存する割合が,骨コラーゲンの同位体分析による結果よりも,低かったことが明らかとなった。このことは,縄文時代にタンパク質源は海産資源に多く依存していたのに対して,エネルギー源は炭水化物を多く含む植物質食料に多く依存していたことを示唆する。この内容をまとめて論文を執筆し,American Journal of Physical Anthroplogyに掲載された。 そして吉胡貝塚より出土した縄文時代人骨の海産物依存度の推定を行った。これは,当初アミノ酸窒素同位体分析により行うことを計画していたが,測定機器とその出力結果に問題が生じたことから,別の手法を検討した。そこで,骨コラーゲンと歯のエナメル質の炭素・窒素同位体比から,ベイズ推定による統計解析を行うことで,海産物依存度を推定することにした。食物の同位体比や統計パラメータの検討の結果,統計解析をすることで縄文人骨の海産物依存度を推定することが可能となった。 (2)吉胡・稲荷山人骨について放射性炭素年代測定を行った。骨コラーゲンからグラファイトを作成し,加速器質量分析装置を用いて,年代を測定した。その結果,縄文時代後期後半から晩期に帰属するという良好な結果が得られた。古人骨の場合,海洋リザーバー効果により,実際よりも古い年代を示すが,上述の海産物依存度の結果を考慮することで,較正した確からしい年代推定を行うことができた。この稲荷山人骨の測定した結果については現在論文を投稿中である。また吉胡人骨については,個体数を増やした後で,すみやかに成果を公表する予定である。
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