植生調査資料は過去の自然の状況を知る上で貴重な自然史情報である。その原票の大半は研究者個人が所有し、社会共有されていないため、彼らの退官や死去で散逸する可能性がある。オンライン公開が進んでいる標本情報に対して、植生調査資料は研究者らが原票で保管し、オンラインでアクセスする環境も整っていない。そのため、植生調査資料は一部が論文等で出版公開されているだけで大半は広く社会で共有されておらず、研究者等の退官とともに消失する危険性が高い。これら植生調査資料を地域の自然誌の解明や新知見の発見、生物多様性の保全のために有効活用するには、社会として植生調査資料を保管し多くの利用者が自由にアクセス出来る環境を整えるべきである。 そこで本研究では植生調査資料の社会的共有の促進に貢献する運用方法を確立するための知見を得ることを目的とした。 今年度は1年目に構築した公開型データベースに2200地点の植生調査資料を追加し、収蔵点数約13200点にまで充実させるとともに、海外への情報発信を念頭に英語版WEBページを作成した。 また、平成29年度の調査で実施の必要性が明らかとなった、国内での植生調査資料の蓄積状況を把握するための研究者・技術者を対象とした郵送式のアンケートを、植生学会会員(約500名)を対象に実施した。アンケートについては現在、集計中であるが、回収率は約20%であり、地域や年代により植生調査資料の蓄積状況が異なる傾向が明らかになりつつある。 さらに、標本データベースとの差異についての検証や、植生調査資料の登録件数の多い兵庫県を対象とした主要植物種の生息適地分析を実施し、植物・植生地理学の観点からの考察を加え、植生調査資料データベースのデータセットのもつ有用性について議論を進めた。 なお植生調査資料のアーカイブの手法に関する報文1件を発表し、生育適地予測分析に関する学会発表を2件行った。
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