研究課題
マニラにおける降水季節変化パターンの長期変化特性を解析し、1868~2013年までの雨季入り・雨季明けの100年スケールの変動を初めて示すことが出来た。結果として、マニラでは1950年代以降に雨季入りが遅くなる傾向がみられた。また100年スケールでみると、20世紀前半に雨季入りが早い時期にあり、同様の傾向が1998年以降にもみられることがわかった。次に、雨季入り・雨季明けの長期変動と下層大気場との関係を明らかにするために、熱帯域の月平均海面気圧との関係を調査した。結果として、1950年頃を境に雨季入り・雨季明けの変動に関連する地上気圧場のキーエリアが異なることが明らかとなった。とくに20世紀後半以降には、雨季入りと春季の月平均海面気圧場との間に有意な相関関係がみられ、フィリピン、ベトナム、インドシナ半島付近がキーエリアであることが示された。雨季明けには、20世紀後半以降に年々変動が大きくなる傾向がみられた。雨季明けと月平均海面気圧場との間には有意な相関が示されなかったものの、1970年代以降にはフィリピン周辺における秋季の平均海面気圧場の年々変動が大きくなっており、雨季明けの年々変動の大きさに影響を与えている可能性が示唆された。また19世紀後半のマニラで観測された3時間ごとの風向・風速、雲形・雲量データを用いて、19世紀のフィリピン周辺のモンスーンと対流活動の日変化及び季節変化についての解析も行った。結果として、モンスーンや海陸風に関連する風向・風速、雲量・雲形の日変化および季節変化特性が明らかとなった。海陸風の日変化が最も明瞭になるのは乾季である3月で、雨季に入ると風向の日変化は不明瞭になり、雲量の日変化も乾季とは異なることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通りに19世紀後半以降のマニラにおける降水季節変化パターンの長期変化特性と下層循環場との関係について解析を行い、研究成果を学会で発表することができた。また19世紀のフィリピン気象データの精度を検証するために、最新のマニラにおける風向・風速、雲量・雲形に関するデータをフィリピン気象庁から得ることができた。同時に、19世紀後半のマニラにおける雲形・雲量及び風向・風速データを用いた解析にも着手した。これらのデータ入手・整備及び解析により、本研究の目的の一つである「100年スケールでの熱帯域の対流活動の解明」に向けた解析をH29年度に行う準備が整った。
H28年度の研究から、フィリピンの19世紀後半以降の降水季節パターンの変化と月平均地上気圧場との関係が明らかになってきたので、H29年度はモンスーンやENSOの変動との関係にとくに着目して調査を行う。具体的には、100年スケールでフィリピン周辺域における対流活動の長期変動特性とフィリピンを中心とする東南アジア地域の気候特性との関係を、多変量解析や相関解析を用いて明らかにする。これまで19世紀の雲形・雲量データを3時間ごとに電子化してきたが、H28年度の研究成果から、季節により、風向風速、雲量・雲形の日変化が異なることが明らかになったため、マニラについては1時間値のデータを追加で電子化することとした。H29年度の早いうちにこのデータセットを完成させ、解析に使用する。
フィリピン気象庁から最新の気象観測データを購入する予定であったが、現地研究者との打合せの結果、共同研究を行うこととなり、無償でデータの提供を受けられることになった。これにより、「その他」の使用予定額が少なくなったため。また国際学会での発表をH29年度に行うこととしたため、H28年度は予定より旅費の使用額が少なくなった。
研究補助者の作業の進捗により、1890年代のマニラ気象観測資料の電子化のうち一部を追加で電子化するため、これを完了させるための費用(電子化の委託業務もしくは研究補助者の人件費)に主に使用予定である。また8月初めにシンガポールで行われる国際学会に参加するために旅費を使用する予定である。
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専修自然科学紀要
巻: 48 ページ: 19-26