研究課題/領域番号 |
15K16284
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
大上 隆史 中央大学, 理工学部, 助教 (30573191)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 河川遷急点 / 河床縦断面形 / 河床礫 / 津波遡上 / 隆起速度 / 侵食速度 / 扇状地 |
研究実績の概要 |
三陸海岸北部を対象とした事例研究を発展させるため,現地野外調査によって現在の河況の記載と河床礫の計測を実施した.河川遷急点の移動モデルに野外調査の成果を組み込むことで,複数の独立した指標から遷急点の移動過程を論じることが可能となる.河床礫の計測は一部の河川では実施済みであるが,不足しているデータを今後の調査によって補う必要がある. 三陸海岸の研究成果の一部である河床縦断面形状のデータを用いて,2011年東北地方太平洋沖地震に伴う津波遡上様式が河床縦断面形状にコントロールされることを実証する研究を進めた.津波は河川を遡上して地形を変化させることが指摘されており,その影響を評価するためには個々の河川における津波の陸上での遡上に関する情報が必須である.2011年の津波ではM9.0クラスの地震に伴う津波の遡上範囲が初めて高精度に記載されており,それにもとづいて河床縦断面形状が津波の遡上長・高度を強くコントロールしたことを実証した.その成果は国際誌に投稿済みであり,国内学会(大上・須貝,2017.JpGU)において成果の概要を発表予定である. さらに,隆起域における河床縦断面形状の変化を一般化していくために,顕著な遷急点が伴わない河川の地形形成過程を解明する研究を進めた.最新の手法を導入して,逆断層により活発に隆起している山地に発達する河川群の地形解析を実施し,長期的な隆起速度を反映した河床縦断面形のパラメータを抽出した.このパラメータは長期的な河床侵食速度と読み替えることが可能であり,河川の下流に発達する扇状地の地形および扇状地を構成する礫の計測にもとづき,扇状地の地形と侵食速度のパラメータの対応を明らかにした.これらの成果は国内外の学会にて発表済みである(大上,2016.JpGU;Ogami, 2016. AGU).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三陸海岸北部の河川群を対象とした事例研究は,現地調査において河床へのアプローチに時間を要し,礫の計測が予定よりもやや遅れている状況である.これに伴い,遷急点の後退モデルを実証的に構築する作業にもやや遅れが生じている. 一方で,三陸海岸の河川群を対象として行った地形解析の結果を用いることにより,2011年東北地方太平洋沖地震に伴う津波の陸上における挙動を,河床縦断面形にもとづいて説明することに成功した.これは本研究課題の当初の目標ではないが,本研究課題を進めることによって派生した研究成果である. さらに,顕著な遷急点を伴わない河川群の地形解析を実施し,最新の研究手法によって長期的な隆起速度ならびに河床侵食速度を反映したパラメータを抽出し,そのパラメータが侵食域・堆積域において持つ意味を実証した.これは本研究課題を進める過程で開発した河川地形解析手法を応用することで得られた研究成果であり,本研究課題の目標である河床縦断面形の動的変化モデルを構築する上で重要な成果である. 以上のように,当初予定していた研究内容は現地調査の遅れに伴って遅れているが,本研究課題を進めることによって複数の研究課題が派生し,大きく2種類の研究成果を挙げた.
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今後の研究の推進方策 |
現地野外調査による礫径データの取得を進めて,遷急点移動モデルを構築していく.ただし,礫径データを揃えることが困難と判断される場合には,すでに取得済みの一部のデータおよび地形データにもとづいた遷急点移動モデルをとりまとめる. 本研究課題から派生した研究課題についても継続して研究を推進する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に計画していた野外調査を実施できなかったため,旅費として計上していた予算分が次年度使用額として発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度末に実施予定であった野外調査を,H29年度内に実施する.
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