本研究課題は、市民によって記録・報告された植物の季節変化(フェノロジー変化)に関するウェブ上の情報を網羅的に収集・精査し、潜在的な生態系観測情報として利用することで、植生の季節変化の時空間変動性やその地域特異性を明らかにすることを目的とする。本年度は次に挙げる2つの研究に取り組んだ。
1. 植物の開花や紅葉などに関するウェブ上の観光情報には日本の気象・気候変動下における植物の生物季節現象の時空間変動性の検出を可能とする潜在的な価値があると考えられる。そこで、ウェブ上で公開されている日本の中部地方における201地点のサクラの開花情報を収集・精査し、生物季節研究における観光情報の有用性と課題点を検証した。
2. 人々に文化的な生態系サービスを供給する開花や紅葉などの植物の季節変化は、観光資源としての価値を持つ。しかし、気温変化に伴う植物の季節変化の期日の変化は、観光客数に影響を与える可能性がある。そこで、気温変化が開花観光に与える影響の評価を目的とした事例研究として秋季の観光資源の一つであるヒガンバナ(Lycoris radiata)に着目し、埼玉県日高市にある群生地(巾着田)を対象に、ウェブ上で公開されている観光情報に基づいて2007年から2013年までのヒガンバナの開花日の年々変化と気温との対応関係を解析した。加えて、観光客の移動の利便性向上を目的とした鉄道の特別運行期間と開花期間中の観光客数の対応関係も同時に調査した。本研究の成果をまとめた学術論文は査読付き学術雑誌に掲載され、オープンアクセスとなっている。
|