研究最終年度となる平成29年度は,地域鉄道の廃止状況と鉄道駅の周辺の社会経済の変化に関する分析を行った.まず,2000~2009年の間に廃止された地域鉄道のかつての鉄道駅周辺と,存続している地域鉄道の駅周辺について,廃止前後にまたがる2000年,2010年の2時点の人口,居住期間,交通手段などの増減や変化を比較した.次に,廃止された地域鉄道一路線を取り上げ,廃止前後の人口変化と都市交通計画の関連を確認した.最後に,廃止された鉄道駅における廃止前後の人口変化率の比較を行った.いずれの分析も,鉄道駅の位置データ(国土数値情報ダウンロードサービス提供)と国勢調査地域メッシュ統計を主なデータベースとし,GISの空間解析で行った.具体的な研究成果は次の通りである. (1)鉄道が廃止された駅周辺では,特に若年層人口,定住者の減少率が,現存する鉄道駅周辺と比較して有意に大きくなっていることが確認された.また,廃止された駅周辺では自動車利用率は増加,徒歩・自転車利用率は減少している傾向にあることがわかった. (2)かつての鉄道駅周辺では人口が減少し,都市計画マスタープランで中核都市拠点として位置づけられている地域では増加していることから,人口増加が鉄道軸から都市軸へ移動している可能性が示唆された. (3)1995年から2010年の5回分の駅周辺の人口データを用いて廃止前後の人口変化率を比較した結果,特定地方交通線のような,当初から輸送密度が小さく沿線人口が少ない駅周辺では,路線の廃止前後で人口減少率が高くなる傾向にあることが確認された.
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