研究課題/領域番号 |
15K16303
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
土屋 兼一 科学警察研究所, 法科学第二部, 主任研究官 (90447920)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線計測 / ガンマ線スペクトロスコピ / ゲルマニウム検出器 / 統計解析 / リスク評価 / 不確かさ / 放射線損傷 |
研究実績の概要 |
原子力災害や放射性物質及び核物質を用いたテロ等の放射線緊急時の初動対応で必要とされる放射線計測について、機械学習の統計手法を用いた高度化を目的とする。 まず、現場でのガンマ線スペクトル測定から核種を同定する精度やウラン濃縮度の推定精度の向上を目指す。不法移転等により発見された核物質やその他の放射性物質について物理的・化学的特性の分析からその出所や履歴を探る核鑑識では、現場でのガンマ線スペクトル測定から核種同定等の分類(categorization)がなされる。特に核物質についてはウラン濃縮度等も重要な情報となる。このような分析には、ゲルマニウム検出器のような高エネルギー分解能の検出器と鉛等の低バックグラウンドの測定環境、充分な測定時間が必要となる。しかし、現場での測定でこれら3つの条件がそろうことは少なく、誤った核種が同定されることもある。このような核鑑識の初動対応において、短時間測定による統計的に不十分なデータから精度良く核種同定がなされる手法が求められている。平成27年度は、核物質分析ソフトウェアFixed-Energy Response-Function Analysis with Multiple Efficiency (ORTEC FRAM ver.5.2)を導入し、ゲルマニウム検出器によるガンマ線スペクトル測定からウラン濃縮度を分析する環境整備を行った。 次に、監視カメラ映像の放射線通過痕跡から撮影現場の線量率を求めることで、放射線検出器を用いない簡易な放射線計測ネットワークのための原理実証を行った。すでに中性子ガンマ線混合場において線量計を撮影したwebカメラ映像データを所有しており、平成27年度は100~1000mSvの積算線量でカメラのノイズ量が変化することを確認した。現在、線量率毎のカメラのノイズ量を定量的に評価する手法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所有するゲルマニウム検出器に真空漏れがあり、修理している期間は当初予定していたガンマ線スペクトロスコピに関する実験ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、昨年度実施できなかったウラン化合物のガンマ線スペクトル測定を行う。可搬型ゲルマニウム検出器による屋外での測定を想定し、統計的に有意でない弱いピークのあるエネルギー領域の分析手法を検討する。例えば、鉛等の遮蔽により185keVの強いピークのあるエネルギー領域が分析できない場合に、高エネルギー領域の複合的な分析が必要となる。 また、監視カメラ映像の放射線通過痕跡から撮影現場の線量率を求める手法について、定量的評価法を確立する。背景差分によるノイズの抽出だけでなく、高周波成分のスペクトル形状による評価も検討する。 さらに、現場隊員の線量リスク評価について、線量計のデータから現場状況(想定される核種や中性子スペクトル)に応じた被ばく線量の確率密度関数を推定する方法を開発する。線量計の指示線量と線量限度(例えば緊急時は100mSv)の比較による1対1の評価法ではなく、確率密度関数によるリスク評価手法を開発する。線量の確率密度関数は①検出器のばらつき、②想定される核種によってガンマ線エネルギー応答が異なることによる不定性、③核物質の種類や臨界の状態によって中性子スペクトルが異なることによる不定性、④活動現場の状況(屋内or屋外、遮蔽の状況等)に基づき求めることを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
所有するゲルマニウム検出器に真空漏れがあり、修理している期間は当初予定していたガンマ線スペクトロスコピに関する実験ができなかった。実験に使用する消耗品費を購入しなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度上半期に、ゲルマニウム検出器を用いたガンマ線スペクトル測定の実験を予定しており、消耗品の執行を計画している。
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