研究課題/領域番号 |
15K16306
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 拓人 東京大学, 地震研究所, 助教 (90435579)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 津波 / データ同化 / シミュレーション / 最適内挿法 / 地震動 / Seismic Gradiometry |
研究実績の概要 |
データ同化手法の一つである最適内挿法に基づき,津波観測記録をもとに津波波動伝播シミュレーションを逐次的に同化する手法の定式化と数値実験を行った. データ同化は,海底地殻変動や断層運動,あるいは初期水位などの従来用いられてきた初期条件に頼ることなく,現時刻の津波波動場(津波波高ならびに流速)をモデルパラメタとして直接推定する.同化を行うときには,パラメタ数より圧倒的に少ない観測量からモデル全体を更新する必要がある.ここでは,観測および数値計算誤差の統計的特徴を先験的に仮定することでその更新に必要な平滑化行列を解析的に求める最適内挿法を利用した. 開発した手法の数値実験を行った.まず,東北地方太平洋沖地震の断層モデル解を仮定し,数値計算によりS-ne設置予定点における津波波形を計算した.それを擬似的な観測記録として,毎秒の津波波動場を推定した.その結果,仮定していた津波波動場そのものを高速かつ正確に再現するすることに成功し,本手法の有効性が明らかになった.一方,震源域のごく近傍においては,海底津波計が圧力を通じて津波を検知することに起因するオフセットが現れる.これについては今後さらなる改善の可能性を検討する. この手法開発に付随して,データ同化にも用いる津波数値計算の境界条件に改善の余地があることが明らかになった.電磁気や地震動で用いられてきたPML法を津波方程式に適用することにより,計算領域の外部との境界から発生する人工反射波を劇的に減ずることが可能になった.さらに,津波のみならず地震動についても面的な波動場を直接的に推定する手法を着装した.シミュレーションとの同化は行わないものの,Seismic Gradiometry法を援用することで,地震動の面的分布からその伝播方向は波の種類などの情報を明らかにすることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の見込み通り,津波に対するデータ同化が実際に実現可能であり,かつ現在構築中の海底津波観測網に対して有効に働くことが明らかになった.当初計画していた数理手法構築案では,最適内挿法とカルマンフィルタの二つを候補として考えていた.これらの候補のうちより高度な手法であるカルマンフィルタは,推定の不確実性の評価がより正確であるという利点がある.しかし,この手法は必要とする計算資源が莫大となり,特に現実的な2次元津波問題では事実上適用が不可能であることが明らかになった.一方,よりシンプルな手法である最適内挿法が津波問題への適用に有効であることが確認されたため,今後はこの方法を軸にさらなる研究を進める. ほぼ計画通りに進展した上述の内容に加え,データ同化に付随するシミュレーションの検討から,津波全般に有効な新しい境界条件の着想と実装に成功した.さらに,波動場そのものを面的に解析するという点で共通する手法であるSeismic Gradiometry法を地震動に適用することにも成功した.後者については研究計画の3年目に予定していた項目であるが,当初の想定よりも実現可能性が高く有効な手法を着装したため,本来計画に並行した研究開発を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で開発された津波データ同化システムのさらなる適用と検討を推進する.仮想データとして用いていたS-netの一部のデータ流通が間もなく始まると期待されるため,津波が記録され次第実データへの適用を試みる.それ以外にも,西南日本のDO-NETや海外の臨時観測等を含め,適用可能なデータの模索と適用可能性の検討を引き続き行う. 一方,数値実験から,断層近傍においては海底地殻変動にともなう人為的なオフセットが発生してしまうことが明らかになった.このオフセットは,津波を圧力計を用いて観測する以上避けることのない一般的な問題ではあるが,データ同化の枠組みの中でこれを回避する方策があるかどうか,理論的な検討を進める. 津波に加えて地震動においても面的な解析が有効であることが示されたので,平成29年度に計画していた地震動へのデータ同化の予備的検討を前倒しして,地震波動場そのものからの波動伝播特製の抽出に関する検討を継続的に行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は経費のかからない理論的な検討が大きく進展したため,当初想定より助成金使用量が少なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度成果の成果発表として,国際学会発表のための旅費,論文投稿のための英文校正と出版費用に活用する.
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