研究課題/領域番号 |
15K16312
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中谷 加奈 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80613801)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 土石流 / 構成材料 / 地形条件 / 人工構造物 / 水理実験 / 数値シミュレーション / 防災 |
研究実績の概要 |
近年発生した土石流災害は、土石流規模だけでなく、構成材料や地形条件、家屋・道路・橋・流路などの人工構造物が被害の拡大要因になる場合がある。土石流挙動に関する検討は多数実施されているが、限られた領域を個別に対象としたものが多く、複数の要因を相互的に扱った検討はほぼ実施されていない。本研究では、被害の拡大要因や各要因の相互の影響までを明らかにするとともに、これらの要因を総合的に解析できるシステムの提案を目的とする。 本年度は、近年の土石流発生事例について、災害前後の航空写真や氾濫・堆積データを収集して、構成材料・地形・人工構造物の情報と被害状況を整理した。災害事例からは粒度分布、流木、立ち木、屈曲、合流、流路工、道路、家屋、橋による閉塞が要因として挙げられた。流木と橋の閉塞、流路工と屈曲や合流は相互の影響が大きかった。 次に既存モデルで検討できる要因と新たに検証が必要な要因を分類した。構成材料で細かい土砂を多く含む土石流は、流体相密度を上げることで高い流動性が表現できるが、適切な値の設定方法が提案されていない。流木による橋の閉塞についてはまだ十分な知見が無いが、閉塞が予測できれば簡易的に表現する手法は存在する。そこで、細粒分を多く含む土石流の挙動と、流木による橋の閉塞は水理実験を行って情報を収集した。また、災害事例や土石流危険渓流を対象として数値シミュレーションを実施して、各要因や複数の要因を考慮することによる被害範囲の違いや災害事例との対応を確認した。結果からは、家屋を考慮すると土石流が家屋を回り込む現象や、土石流規模に対して流路工が小さいと溢れる様子、橋の閉塞を考慮するとその地点からの氾濫・堆積が確認され、考慮しない場合に比べてより現実的な到達範囲の検討が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、次の3項目の実施を計画していた。1.土石流災害の前後の航空写真から氾濫・堆積データの収集、2.氾濫・堆積に寄与する要因の整理、3.既存モデルでの検証及び改良である。対象は平成26年長野県南木曽、広島県広島市、平成25年伊豆大島、平成24年熊本県阿蘇市、並びに昭和61年に京都府相楽郡和束町で発生した土石流とした。災害事例から粒度分布、流木、立ち木、屈曲、合流、流路工、道路、家屋、橋の閉塞が要因として挙げられ、流木と橋の閉塞、流路工と屈曲や合流は相互の影響が大きかった。3.の数値シミュレーションでは、土砂の構成材料、地形的要因、構造物を相互的に検討した。GISと連携したシステムを採用して、地形的要因は国土地理院の公開する情報やDEMを、人工構造物は基盤地図情報のデータを利用した。詳細な高さ、位置等は現地調査や航空写真から調整した。 結果から、数mメッシュを採用して家屋や流路などの人工構造物を考慮する方が、再現性が高かった。細かい土砂を多く含む土石流は流体相密度を上げると流動性が高くなり到達範囲が広がることが示されたが、流体相密度の設定方法は十分な知見が無かったため水理実験を行い新たな設定方法を検証した。橋や流木の緒元を変えた水理実験を行い(本年度は予備実験)、橋の直上に到達する流木密度が閉塞の有無に影響することを確認した。橋の位置の高さを両岸と同じにして橋の閉塞を表現する手法でシミュレーションを行うと、水位・河床上昇による氾濫・堆積が確認された。道路の影響を粗度係数を小さくする手法を実施したが、変更しない場合と比較して違いが見られなかった。それよりも、家屋を地盤高で補正する手法では、相対的に低い道路が表現されて道路上を流れる現象が確認された。なお、本年度は合流について1.情報収集と2.要因整理の検討を実施したため、シミュレーション等での検証は次年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1.水理実験による検討と、2.新たな計算モデルの提案と検証、を予定している。また、土石流災害事例の情報収集を今後も引き続き行う。 実験は、局所的な現象を確認するための水路実験、及び氾濫・堆積状況を確認するための地形模型実験を予定している。実験で使用する流木模型や巨礫模型、地形の一部の製作には3Dプリンタの利用を予定している。実験では、巨礫が停止することによる地形変化、細粒分を多く含む土石流の挙動、流路や道路の存在、屈曲、合流による氾濫・堆積状況の変化を確認する。特に流木の橋への閉塞については、平成27年度に実施した予備実験を元に、橋脚数、流木の長さや形状、密度の違いを変えた条件で実施する。実験により、流木が橋を閉塞する場合の境界条件を明らかとして、山地河川での安全な橋の形状を提案することと合わせて、統合的な数値シミュレーションを行う際に橋の閉塞の有無を考慮するための条件設定に利用する。 得られた実験結果と既存のモデルとの比較検証を行う。新たに得られた災害事例の情報とモデルの比較検証も実施する。シミュレーション等を用いた合流の影響についての検討も予定している。特に、既存モデルをそのまま利用可能な要因、パラメータを調整することで検討可能な要因と、モデル改良が必要な要因を整理し、改良が必要な要因については新たなモデルを提案する。
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