研究課題
低侵襲ながん治療法である光線力学療法(PDT)において安全性・有効性の高い施術が求められている.PDTにおける細胞死様式を制御し,正常組織への副作用を制御することが解決策となると考えられる.本研究では,細胞死様式の制御のために計算機シミュレーションを応用することが本研究の目的である.今年度の研究では,PDTの細胞障害を誘発する一重項酸素の生成量を推定するための計算機シミュレーションを開発し,この成果を特許として出願した.本シミュレーションは,PDT用光源の発光スペクトル,および一重項酸素生成量子収率等を入力することで,種々のPDTの治療条件に対する治療効果を推定する.シミュレーションを用いて推定した治療効果の妥当性を評価するために,まずPDTによる細胞死の閾値を推定できるか検討したところ生成された一重項酸素量のオーダーは妥当であることが確認された.次に,治療領域の推定が可能かどうか,実測値と比較したところ,シミュレーションによる推定値は過大評価となった.この課題を解明するため,各入力パラメーターの妥当性について調べることとした.具体的には,一重項酸素生成量子収率の実測を検討している.さらに今年度は新規PDT用光源の研究開発において,効率的に治療条件を評価できるモデルである鶏卵移植腫瘍組織の光学特性を計測した結果を報告した.鶏卵移植腫瘍組織の光学特性は担がんマウスの腫瘍組織の光学特性と同等であることが定量的に示された.これより,PDT用新規光源の開発において治療条件を効率的に求められるだけでなく,シミュレーションの妥当性の評価においても有用なツールとなることが明らかとなった.
3: やや遅れている
計算機シミュレーションを実装し終え,シミュレーションの確度および精度の検討を行うために,実験値との比較を行った.当初の計画では,妥当性が得られる予定であったが,シミュレーションの確度が低いことからシミュレーションに用いていたパラメーターの見直しが必要となった.シミュレーションで用いているパラメーターの一つである一重項酸素生成量子収率は文献値を引用しており,数値の妥当性を評価するために実測することとした.そこで,確度の高い測定法を用いて一重項酸素生成量子収率を測定し,シミュレーションの確度向上について再検討している.実測した一重項酸素生成量子収率は文献値とは異なる値が得られており,現在実測値の再現性を確認している.以上より,シミュレーションの開発において,当初の計画からやや遅れている.
平成27年度に実装した計算機シミュレーションの確度を高めるための各パラメーターの実測,およびシミュレーションの妥当性の確認を行う.実測値をもとに改良を加えた計算機シミュレーションの評価を行い,シミュレーションを完成させる.がん組織におけるPDTの効果は,細胞壊死による周辺組織の炎症,血管閉塞,組織内の薬剤分布など,組織学的な外乱が加わり,治療領域にばらつきが生じる.このため,細胞系におけるPDTの効果について評価することにより,外乱を少なくし,PDTによる細胞損傷閾値の決定も検討している.
次年度開始すぐに購入したい消耗品を計画しているため、約1万円を次年度使用分とした。
次年度助成金請求額(60万円)とあわせて、消耗品費として43万円、旅費用として12万円,論文執筆等その他6万円を使用する計画である。
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http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seemb/seemb/