研究課題
平成28年度は,計算機シミュレーションの精度を高めるために,光感受性物質の一重項酸素生成量子収率の測定を行った.PDTにより生成される一重項酸素の濃度に関連する要因の一つは光感受性物質の一重項酸素生成量子収率である.一重項酸素の生成量子収率が文献により報告されているが,文献値を用いて計算機シミュレーションにより治療領域を評価した結果,実測値に比べると確度は73%であった.そこで本研究では,一重項酸素を直接的に検出可能なことから最も正確な手法であると考えられている,一重項酸素由来の波長1270 nmの発光の検出を利用した計測方法によって,既存のPDT用光感受性物質であるタラポルフィンナトリウム,次世代の光感受性物質として期待されているプロトポルフィリンIX(PpIX)およびPpIX lipidの一重項酸素生成量子収率を決定した.その結果,それぞれの一重項酸素生成収率は0.56,0.76および0.84であった.また計算機シミュレーションの妥当性について検討するために担がんマウスを用いて行ったPDT実験により評価した治療領域の結果と上記一重項酸素量子収率を用いて本シミュレーションにより推定された治療領域とを比較した.実験によってPDTにより腫瘍組織が壊死した幅の最大値は3.5 mmであるのに対して計算機シミュレーションの結果では3.95 mmであった.このことから計算機シミュレーションの確度は87%であると考えられた.正確な一重項酸素生成量子収率を用いることで計算機シミュレーションの確度が13%まで増加した.以上の結果より,構築した計算機シミュレーションモデルを用いて治療条件の妥当性や安全性・有効性を評価することで,必要となる実験の条件を絞り込んだ上で,少数例の非臨床試験や臨床試験を行い,新規のPDTをスムーズかつ合理的に実用化へ導くことが可能であると考えられる.
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