前年度まで開発した、動的な心血管組織における「力」の可視化手法を応用し、心臓の血行力学的負荷に対する応答とその破綻のメカニズム解明を試みた。本研究では特に、力学的負荷によって活性化されるイオンチャネル(機械刺激感受性チャネル)に着目し、遺伝子改変技術によりイオンチャネルを欠損したマウス(ノックアウトマウス)、生体心機能解析技術、単一心筋細胞の微小操作技術などの生理学的実験手法を組み合わせて解析を行った。 健常マウスの心臓では、急激な血行力学的負荷の上昇に対して、心機能を上昇させることにより血液の拍出量を調整するが、機械刺激感受性チャネルノックアウトマウスでは、この調節機構の一部に異常が見られた。この機能異常は、単一心筋細胞に対して微小操作技術により伸展刺激を加えた場合でも見られたことから、心臓を構成する血管・間質組織が原因ではなく、心筋細胞そのものの異常に起因すると考えられた。独自に開発した心臓イメージング技術により、血行力学的負荷が加わった際の心筋組織とそれを構成する個々の細胞の挙動変化の解析を現在進めている。また同時に、心筋細胞内のカルシウムを蛍光したカルシウム可視化マウスを使用して、機械刺激感受性チャネルの有無で、血行力学的負荷に対するカルシウム応答が異なるか検討を進めている。心臓の詳細な力学的負荷の分布とカルシウム動態を同時に知ることで、機械刺激感受性チャネル・力学的負荷と病態の関係の理解に繋げ、機械刺激感受性チャネルをターゲットにした心不全治療薬など、新たな治療開発に繋げて行く。
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