電磁ファントムは生体の電気的特性(主に誘電率と導電率)を模擬したものであり、医療機器を含む体内埋込型や密着型電子機器の各種性能評価に不可欠でアリ、様々な研究報告がある。本研究では医療機器の電磁両立性(Electromagnetic Compatibility)を薬機法に基づいて評価する際、特に体内埋込型や密着型医療機器において、生体の影響を考慮し実際に使用される状態に近い条件下において試験が実施できるよう、人体の電気的特性を模擬した電磁ファントムの研究開発を行う。 従来技術との相違として、繊維状材料の添加とその配向制御を行うことにより、低周波数帯域において筋肉組織などに見られる異方性をも模擬したファントムの高機能化が挙げられる。 まず、ファントムが模擬すべき目標値を決めるため、ブタ筋肉の電気的特性を測定した。その際、死後の時間経過による特性変化の有無を確認するため、犠死直後のブタ筋肉と市販ブタ精肉を測定・比較した。これにより、ファントムが模擬すべき筋肉の電気的特性を得ることができた。 低周波用電磁ファントムの開発に向けて、まず基本材料であるイオン交換水、塩化ナトリウム、寒天から成るファントムの試作と電気的特性を行い、その上で、繊維状材料としてカーボンファイバを添加したファントムを試作した。材料調合割合の検討を行うことにより、低周波数帯域において従来よりも生体の電気的特性をより再現したファントムを実現することができた。さらに、ファントム試作の過程における液体状のものに対して、外部から磁界を照射することによりカーボンファイバの配向を制御することができた。試作されたファントムの電気的特性を測定したところ、測定の方向により電気的特性が異なることが確認された。これにより、異方性を有するファントムの実現可能性が十分に示唆されたといえる。
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