研究課題
本研究は細胞移植による虚血性疾患の治療を目指し、移植用細胞として脂肪組織から血管形成能の高い細胞を培養する技術を確立することを目的としている。平成27年度はマウス皮下脂肪を用いて脂肪組織から採取した細胞の培養法を検討し、脂肪組織由来細胞群から血管構成細胞を選択的に培養する技術の確立に成功した。そこで次に、培養した血管構成細胞が血管形成能を持つかどうか検討を行った。まずin vitroでの血管形成能を検討するため、マトリゲル上に脂肪由来血管構成細胞を播種し、チューブ構造を形成するかどうか解析を行った。その結果、脂肪由来の血管構成細胞は血管様の網目構造を形成できることが明らかとなった。次にin vivoでの血管形成能を検討するため、マウス腎皮膜下への移植実験を行った。その結果、移植した細胞が血管を形成する事を確認した。またそれら血管中には赤血球の存在が認められたことから、脂肪由来の血管構成細胞はin vivoで機能的な血管を形成する能力を持つことが明らかになった。現在、虚血性疾患モデルマウスとして大腿動脈の結紮による下肢虚血マウスを作製しており、本マウスに対する血管構成細胞の移植実験を行っている。これまでのところ、移植した細胞がCD31陽性の血管様構造を形成していることを確認しており、今後さらに下肢組織における血管数および血管サイズを解析することで、細胞移植の効果を定量的に示したいと考えている。
3: やや遅れている
当初の予定では平成27年度中に下肢虚血モデルマウスを用いた細胞移植の効果を明らかにすることを予定していたが、現在までのところ移植した細胞が血管形成能を持つことを確認するまでに留まっている。その理由は、大腿結紮を行ったマウスにおいて病状の進行に差があり、細胞移植による治療効果の影響とマウス個体差の影響を明確に区別出来なかったためである。そこで平成27年度は、in vivo移植実験として比較的簡単な腎皮膜下への移植を先に行い、脂肪由来の血管構成細胞の血管形成能を明確に示すことに専念した。今後は、マウスのn数を増やすことによって下肢虚血モデルマウスでの治療効果を明らかにしたいと考えている。
本研究は、脂肪組織由来細胞群から血管形成能の高い細胞を培養する技術を確立し、効果的な血管再生技術を開発することを目的としている。平成27年度までの研究により、皮下脂肪組織から高い血管形成能を持つ事が予想される血管構成細胞を選択的に培養する技術を確立した。効果的な細胞移植治療を実現するためには、このような治療効果の高い細胞を培養する技術の確立が必須であり、これまでにも多くの研究者が培養技術の検討を行ってきている。そのため、私が行った培養法で得られる細胞と、これまでに報告された培養法とで得られる細胞にどのような違いが有るのかという点は多くの研究者が注目するところであり、重要な課題である。そこで平成28年度は、新規培養法と従来法とで得られた細胞のより詳細なキャラクタリゼーションを進めることを予定している。さらに、新規培養法と従来法とで培養した細胞の移植実験を行い、その血管形成能の違いを定量的に示すことを計画している。以上の研究結果から、細胞における遺伝子発現およびタンパク質発現の状態とその細胞が持つ治療効果との対応関係を明らかにすることにより、どのような性質を持った細胞が血管再生に最も適した細胞であるかを明らかにする。
研究打ち合わせにかかる交通費として確保しておいたが、研究の進捗状況を考慮した結果、次年度に行う方が有意義であろうと判断したため予定していた研究打ち合わせが次年度に延期となった。
平成27年度に予定していた研究打ち合わせを今年度に行うため、本繰り越し金を研究打ち合わせの際の交通費として使用する予定である。
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Stem Cells Transl Med
巻: 12 ページ: 1511-1522
10.5966/sctm