研究課題
本研究の目的はナノ粒子の腫瘍組織における細胞取り込みを促進する新規シェル分子の開発である。平成27年度の計画内容は、主に新規シェル分子の化学合成及びそのpH応答性評価、培養細胞における細胞取り込み評価である。実際に、新規シェル分子に相当する高分子の合成に成功し、そして異なるpH挙動を有する高分子(比較用の高分子)の合成にも成功した。それらの大量合成(~1g)を行った後に、腫瘍組織に相当するpH(~6.5)において細胞膜構成物質との相互作用を評価したところ、本研究にて開発された新規シェル分子のみが腫瘍組織内pH選択的に細胞膜構成物質と相互作用することが証明された。さらに、新規シェル分子に対して蛍光標識を施し、培養細胞に対してアプライしたところ、正常組織に相当するpH7.4では目立った細胞取り込みは観察されなかったのに対し、腫瘍組織に相当するpH6.7においては細胞取り込み効率が飛躍的に向上する様子が蛍光顕微鏡にて観察された。さらに、細胞取り込みを停止する温度(4℃)にて同様の実験を行ったところ、pH6.7においては新規シェル分子が細胞膜表面に吸着している様子が観察された。このことから、本研究にて開発された新規シェル分子が腫瘍内環境選択的にその特性を変貌させることで、正常組織に対してはステルス性を発揮するが、腫瘍組織において細胞膜に吸着することで細胞取り込みを促進可能であることが証明された。さらに、開発された新規シェル分子の動物実験レベルでの性能を評価するために、血中滞留性評価及び体内動態評価を行う必要がある。それに先駆けて、平成27年度において新規シェル分子を量子ドットに対して導入する条件の検討を行い、その最適化に成功した。薬剤のモデル物質である量子ドット1個に対して新規シェル分子が平均して~30本導入可能であり、平成28年度に行う動物実験の準備を万全なものとした。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題において、平成27年度では高分子合成の条件検討及び目的となる性能を有する高分子の開発・発見に重きを置いていた。結果として、培養細胞等を用いて目的となる性能を有する高分子の発見に成功し、さらにその大量合成を可能とする合成手法も確立した。さらに、平成28年度に重きを置いている動物実験に関し、主に使用される量子ドットを修飾した構造体の合成にも成功し、担がんモデルマウスの作成にも成功している。予備実験段階ではあるものの、すでに動物実験レベルでも本研究にて開発される新規シェル分子が既存のシェル分子であるポリエチレングリコールと同等の血中滞留性を示すことも確認している。以上により、平成27年度における本研究の進行は計画以上に進展している、と判断した。
平成28年度においては、平成27年度にて発見された高分子を新規シェル分子の第一候補として用い、動物実験を主体とした研究計画を実行する。既に、平成27年度において、薬剤のモデル物質である量子ドットに対して効率的に新規シェル分子を導入可能とする方法が確立されており、担がんモデルマウスの作成にも成功しているため、速やかな研究計画の遂行が可能である。具体的には、新規シェル分子にて修飾された量子ドットを担がんモデルマウスに対して静脈投与し、その血中滞留性や体内動態評価、腫瘍への集積評価を実施する。同時に、比較対象として既存のシェル分子であるポリエチレングリコールあるいは異なるpH応答性を有する高分子でも同様の実験を行うことで、本研究で開発された新規シェル分子の有用性・実用性を明らかなものとする。
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