研究課題/領域番号 |
15K16332
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下田 麻子 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (90712042)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エクソソーム / 生体材料 / 骨再生 |
研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSC)は骨芽、軟骨、脂肪細胞などあらゆる細胞へ分化する能力を持ち、組織修復能に優れている。MSCは細胞の増殖や分化に必要な因子を放出することからMSC移植による再生医療が注目を集めているが、大量培養にかかるコストや品質管理などの問題も残されている。 あらゆる細胞は30-200 nmの小胞(エクソソーム)を細胞外へと分泌し、その内部にタンパク質やDNA、micro RNAを保持していることが知られている。エクソソームは細胞のみならず血液、尿、母乳などに存在し、由来細胞に応じた種々の働きを持つため、細胞間コミュニケーションツールとして注目を集めている。MSCが分泌するエクソソームもMSCと同様の効果を持つと考えられることから、組織修復に必要な成長因子を保持するエクソソームをMSCから単離し、これを欠損部に移植することで効果的な組織再生を試みることとした。これまでに心筋や神経再生の報告例があるが、本研究では特に骨再生におけるエクソソームの役割について検討した。 様々な組織(骨髄、脂肪、歯髄)由来MSCからエクソソームを超遠心分離法によって単離し機能評価を行った。全てのサンプルにおいて透過型電子顕微鏡観察や粒径測定により約180 nm前後の脂質二重膜で囲まれた粒子が得られ、エクソソームマーカーやMSCマーカーのタンパク質発現を確認した。次に骨形成との関連を調べるため、まずは骨芽細胞分化によく用いられているマウス頭蓋骨由来細胞(MC3T3-E1)を使用し、分化開始後に経時的にエクソソームを回収したところ、各分化日数で180-200 nm程度の粒子が得られた。また、骨芽細胞が分化後期に分泌する石灰化の核となるエクソソーム様のマトリックスベシクルと呼ばれる小胞も同様に回収した。現在、発現タンパク質の解析やエクソソームとマトリックスベシクルの機能の比較などを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞の種類によってエクソソームの分泌量には差があるため、まずは安定かつ大量に回収できる細胞の選別を行った。本研究ではよく用いられているマウス骨髄由来(BM-MSC)に加え、脂肪由来(ADSC)およびヒト脱落乳歯髄由来(SHED)のMSCからエクソソームの単離を試みた。SHED由来もある程度単離できたが、BM-MSCおよびADSC由来が比較的多くの量が回収できた。透過型電子顕微鏡による構造観察およびナノ粒子解析装置による粒径測定により、直径が180 nm前後の脂質二重膜で囲まれた粒子が得られたことがわかった。エクソソームマーカーであるCD9やMSCマーカーであるCD73, CD90などのタンパク質発現も確認された。現在他のタンパク質発現についても解析中である。 骨形成とエクソソームの関連性を調べるために、MSCを分化誘導する前にまずは骨芽細胞分化によく用いられているマウス頭蓋骨由来細胞(MC3T3-E1)を用いることとした。分化のステージの違いによる機能比較を行うため、誘導開始0、3、7、10、14、21日後に超遠心分離にて回収した。MSC由来エクソソーム同様に、180-200 nm程度の小胞が確認できた。現在、骨芽細胞マーカーおよびエクソソームマーカータンパク質の発現確認を解析中である。また、骨芽細胞は自身が分泌するコラーゲンにマトリックスベシクルと呼ばれるエクソソームに似たベシクルを埋め込み、ここから石灰化を開始することで骨基質が形成されることが知られている。そこで、分化が十分に進行した21日後にエクソソームと同時にマトリックスベシクルも単離した。骨形成の指標となるアルカリフォスファターゼ活性を測定したところ、エクソソームでは分化が進むにつれ高くなり、マトリックスベシクルは最も高い活性を示した。今後は石灰化アッセイなどを行い、両者の比較を行う。以上よりおおむね計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られたエクソソーム及びマトリックスベシクルに関してさらなる機能評価を行う。具体的には、分化の進行度合いによりosteocalcinやRunx2などの骨芽細胞分化マーカーの発現量の違いを比較し、骨形成に効果的なエクソソームを選択する。前年度はMC3T3-E1細胞を用いたが、MSCを骨芽細胞へと分化させた系についても同様の検討を行う。また、エクソソームとは別にマトリックスベシクルを単離したが、これについてもカルシウムトランスポーターであるアネキシン、石灰化に重要な酵素であるPHOSPHO1などの発現を調べる。発現タンパク質のプロファイルが得られ次第、未分化細胞へのエクソソームもしくはマトリックスベシクル添加による骨芽細胞分化能を調べる。 骨欠損部に目的の骨再生因子を効果的に作用させるには足場となる材料が必要となる。エクソソーム内包の足場材料として、本研究では多糖ナノゲルを用いる。骨形成因子を内包した多糖ナノゲルは骨再生の足場材料として有用であることを報告しており、エクソソームを埋め込む際にも同様の効果が得られると予想される。すでに、エクソソームと多糖ナノゲルとの相互作用については、多糖ナノゲル内のコレステロールからなる疎水性ドメインと脂質二重膜からなるリポソームが相互作用すること、表面がプラスにチャージしたカチオン性ナノゲルとエクソソームは静電的相互作用により複合化することがわかっている。そこで、細胞が入る隙間を有するポーラスゲルやフィルム状に乾燥させたナノシート、細胞接着性を付与したナノゲルとの複合体、ナノファイバーなど様々な種類の材料と組み合わせ最適な条件を検討する。エクソソームの内包量や多糖ゲルからの放出挙動は蛍光色素を修飾したエクソソームを用いて算出する。その後、実際にin vivoでの骨形成能を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
エクソソーム単離の際に市販のキットをいくつか試す予定であったが、使用せずに超遠心分離にて行ったことや、国際学会に一度のみの参加だったことなどから予定よりも少ない支出となった。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞を分化させるために必要な培地や試薬が高価であるため、それらの購入に用いる。また、論文投稿の際の経費、国内および国際学会での積極的な発表に使用する。
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