研究課題/領域番号 |
15K16334
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山添 泰宗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (00402793)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルブミン / 炎症性疾患 / 活性酸素 / 抗体 / SOD / フィルム |
研究実績の概要 |
本研究では、アルブミンを主成分としたフィルムにSuperoxide dismutase (SOD)と抗体を組み込むことで活性酸素除去能と細胞認識能を備えたタンパク質フィルムを開発することを目的としている。本年度は、アルブミンとSODから成るフィルムの表面に、配向が制御された抗体を組み込む方法を確立した。具体的には、疎水性の基板上に抗体の配向を制御して吸着させた後、フィルムの元となる溶液(アルブミン、SOD、架橋剤などを含有)を加え、水分を飛ばしてフィルムを形成後、エタノールに浸漬して基板からフィルムを剥離する、という一連の手順により目的とするフィルムを得ることに成功した。酸溶液や加熱処理などによるフィルムの剥離や親水性の基板なども試したが、フィルムが基板に強固に貼りついて剥離することができなかった。 フィルムに組み込まれた抗体の抗原認識能を評価したところ、抗体の配向制御法として広く用いられているプロテインGを利用した方法よりも認識能が高いことが分かった。さらに、抗体の安定性の向上も見られ、70℃加熱やグアニジンへの暴露など、タンパク質の変性を促す処理を行った後においてもその抗原認識能を保持していることが分かった。これは、抗体がフィルムの内部に埋まり込むような形で組み込まれ、周囲をアルブミンなどの分子で取り囲まれているためであると考えている。 次に上記の結果をもとに、より微小なサイズを有するフィルムを作製した。方法としては、インクジェットプリンターを利用して、微量のフィルムの元となる溶液を基板上に滴下することで最少60μmの大きさを有する抗体とSODを含有したフィルムを作製することに成功した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて、微小フィルムの形状を詳細に解析した結果、中央部で薄く(膜厚:約170 nm)、外周部で分厚い(膜厚:約740nm)形状をしていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通りに実験は進んでおり、本研究の根幹をなす、抗体とSODを含有した微小なタンパク質フィルムを作製する方法を確立することができた。また、微小フィルムの細胞認識能の評価など、次年度に計画していた実験についても予備的な検討に着手することができた。さらに、アルブミンフィルム上へのタンパク質の吸着性やフィルム内部のアルブミンの分子構造など、本研究内容と密接に関連するアルブミンフィルムの基礎的な物性について多くの知見を得ることができた。以上のことより、現在までのところ、目標達成に向けて研究がおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度作製した抗体とSODを含有した微小なタンパク質フィルムを用いて、フィルム内の抗体とSODの働きによる細胞認識能と活性酸素除去能を評価する。 微小フィルムの細胞認識能に関しては、好中球と微小フィルムを混合し、フィルムへの細胞の付着挙動を観察することで評価する。本研究では、HL60細胞をジメチルスルホキシド(DMSO)で刺激して好中球に分化させた細胞を用いることを計画しているが、DMSO処理により、既存の文献と同様にHL60細胞が好中球へと分化し、刺激に応答して活性酸素を分泌することは既に確認しており、速やかに本実験を開始できる体制を整えている。 微小フィルムが好中球を捕捉することに成功した後、好中球が分泌する活性酸素をフィルム内のSODがどの程度除去できるかを評価する。活性酸素の検出方法として様々な方法があるが、簡便でかつ感度が高い化学発光法で検出することを考えており、既に本研究目的に適した化学発光試薬の選別、及び、購入を終えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度の予算に関して、消耗品費や外国出張旅費が当初の予想額を下回ったため、次年度への繰り越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
経費の主要な用途は消耗品費であり、細胞を使った実験に必要となる物品(培地、血清、ピペット、培養皿、細胞分離用フィルター)、各種タンパク質(抗体、SOD、アルブミン、ビオチン化HRP)、各種化学試薬(架橋剤、保水剤、HRPの基質となる蛍光試薬)、自己組織化単分子膜の作製に必要となる物品(アルカンチオール試薬や金基板)などを購入するために使用する。また、研究成果を発表するための経費(国内旅費、海外旅費、学会参加費、英語論文の校閲費)を計上している。
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