生体内病因物質を捕捉し,異所代謝経路へ誘導する“Drug-Navigated Clearance System (DNCS)”研究では,「捕捉」と「誘導」の両機能を有した分子(ナビゲーター)の半合成が行われてきた.しかし,ナビゲーターの合成効率や機能が不十分で,in vivoでのDNCSの実証には至っていない.本研究では,複数の機能性分子の恒常的な融合及び一次構造レベルでの分子設計による機能増強・改変を可能とするキメラタンパク技術を利用し,DNCSの実証に取り組んだ.本年度は,透析アミロイドーシスの病因となるβ2ミクログロブリン(β2MG)を肝臓へと誘導し得るキメラタンパクナビゲーターの機能をin vitro,in vivoで評価した. 培養肝実質細胞の培地にβ2MGを加え,ELISAにより,培地中に含まれるβ2MG量を継時的に定量した.その結果,ナビゲーター(肝臓誘導分子:アポリポタンパクEのN末端領域(ApoE-NTD)とβ2MG捕捉分子:主要組織適合遺伝子複合体α3ドメイン(α3)から成る融合タンパク;予め脂質(DMPC)と複合体を形成させる)を培地に添加した場合,培地中に含まれるβ2MG量が,無添加の場合に比べ,有意に減少した.ナビゲーターのα3がβ2MGを捕捉し,ApoE-NTDが肝細胞表面のLDLレセプターに結合したと考えられる.これより,in vitroでのDNCSが証明できた. α3の代わりに緑色蛍光タンパクがApoE-NTDに融合した蛍光性ナビゲーターを用いて,in vivoイメージャーにより,マウス体内でのナビゲーターの動態を評価した.その結果,DMPCと複合体を形成させることで蛍光性ナビゲーターの肝臓への蓄積量が増加する傾向が認められた.しかしながら,蛍光性ナビゲーターの多くが腎臓に集積することが分かり,肝臓誘導分子の改変の必要性が見出された.
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