研究課題
本研究では,肋骨によって設ける孔の位置が制限される胸腔鏡手術を対象に,仮想孔の概念を導入した新しい手術支援システムを開発し,胸腔鏡手術の操作領域の拡大,および医師の負担軽減を目標としている.本提案システムでは,一本の手術器具が胸壁を介してコの字型に湾曲し,体内外で連動することで仮想孔を実現し,新たな孔から手術器具を操作している操作感覚を医師に与えることが期待できる.平成27年度から平成28年度までの研究計画として,(1)胸壁面で対称的に屈曲する湾曲部の開発と(2)通常の手術器具と同じ5自由度を実現する体内・体外器具の開発を目標として掲げていた.本研究を開始するにあたり,将来的に提案システムを臨床現場に導入するためには,医師のニーズに合っているか確認することが第一優先だと判断し,手術現場の見学や国内外の調査をメインで行った.手術見学では,症例ごとの手術ステップや操作機器について観察し,どのタイミングで提案システムを利用できるか考えることができた.胸腔鏡手術では,手術中に肺を縮小させて胸腔内の空間を広く保つことができ,提案システムの許容サイズや操作範囲を見積もることができた.また,手術後の症状として肋間神経痛が挙げられるが,本提案システムを実現すれば,孔の位置を変更する際も,新たな実孔を設けることなく仮想孔で操作が可能となり,肋間神経痛の発生リスク低減に繋がることも分かった.また,国際学会1件(EMBC2015)、国内学会1件(日本コンピュータ外科学会大会)で発表し,様々な分野の方からフィードバックを得ることができた.日本コンピュータ外科学会大会では,学会誌の特急査読に推薦していただくなど,研究内容が注目されていることも分かった.
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたプロトタイプ開発ではあまり進捗は無いが,手術見学や情報収集を集中的に取り組んだことで,提案システムのコンセプトについて整理することができた.医療機器を実用化する際に重要となる臨床現場の把握を行ったことで,今後より効率的にプロトタイプ開発を進めていくことが期待できる.
平成28年度からは本格的にプロトタイプ開発に取り組んでいき,医師が簡単にセットアップや操作ができる仕様に変更することを視野に入れて開発を進める.また,従来取り組んでいた手術見学や研究調査も継続して行い,複数人の外科医の意見を聞くことで限定的にならないデザインを目指す.
当初,本研究の研究計画として初年度に提案システムのプロトタイプ開発までを達成目標にしていたが,実用化までを考えた際に,プロトタイプ設計・製作を開始する前に手術現場を把握し,外科医のニーズとの整合性を確かめることが最優先だと判断し,研究計画を変更した.よって,平成27年度は胸腔鏡手術の見学や国内外の学会等による情報収集をメインで行ったため次年度使用額が発生した.
平成27年度に予定していたプロトタイプ開発を平成28年度から行うため,プロトタイプ開発費用(材料代や加工代等)の一部として使用する.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
映像情報メディカル(産業開発機構)
巻: 48 ページ: 16-20
未来医学誌
巻: 29 ページ: 20-34
INNERVISION(インナービジョン)
巻: 30 ページ: 38-39