研究課題/領域番号 |
15K16346
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
成田 大一 弘前大学, 医学研究科, 助教 (90455733)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線障害 / リハビリテーション / 皮膚 / 超音波療法 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,局所放射線障害モデルの対象数を増やして超音波療法を実施し,皮膚の上皮形成や関節可動域,線維化を促進するタンパク(Transforming growth factor (TGF)-β)の発現に与える影響を調査した。 ラットは8週齢の雄18匹を使用し,X線非照射群(CON群,n=6),30GyX線照射群(30Gy群,n=6),30GyX線照射後,超音波療法実施群(30Gy-US群,n=6)に無作為に割り付けた。X線照射は,ラットが9週齢時に右後肢にのみ実施した。30Gy-US群は,X線照射翌日から,X線照射部位の皮膚に1週間に5日,1日10分超音波を照射した。 X線照射前日,照射3日後,1,2,3,4週間後に全ラットの皮膚の外観を評価するとともに足関節背屈関節可動域を測定した。またX線照射4週後に照射部位の皮膚を採取してウエスタンブロッティングを実施し,TGF-β-induced proteinの発現量を解析した。 その結果,皮膚の外観では,30Gy群,30Gy-US群でX線照射後2週頃より放射線による影響が出現し,脱毛や浸出液がみられた。しかし,照射4週間後,30Gy-US群では,30Gy群に比べ症状が有意に改善していた。足関節背屈可動域では,Con群と30Gy-US群の間に有意差は認められなかったが,30Gy群では他の2群に比べ照射後2週頃より有意に可動域が低下した。TGF-β-induced proteinの発現量には3群間で有意差は認められなかった。 以上の結果から,放射線皮膚障害に対して超音波療法が皮膚の症状を改善し,関節可動域の低下を抑制できることが示唆された。しかし,TGF-β-induced proteinの発現量には有意差が認められなかったため,今後は皮膚線維化の組織像や病期による分子の発現量,ならびにその機構をより詳細に調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの実験結果から超音波治療により放射線照射後の足関節背屈可動域の改善が認められている。しかし,皮膚の線維化に関連するTGF-β-induced proteinの発現量に有意差は認められなかった。このことから,足関節背屈可動域の低下は皮膚の線維化以外の因子が関与していることや,病期によってTGF-β-induced proteinの発現量が違うことなどが考えられる。そのため今後は皮膚線維化の組織像や病期による分子の発現量やその機構をより詳細に調査する必要がある。また,今年度は皮膚線維化を中心に研究を行ったためリンパ管の機能形態に関する検討は不十分であった。 以上のことより現時点では研究がやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画ではリハビリテーション介入として関節可動域運動や運動負荷も検討していたが,急性期における超音波療法の有用性が見いだせたことから,超音波療法に的を絞り,上述の課題の解明に取り組んでいく予定である。現在サンプリングは一部を残してすでに終了しているため,本研究課題の最終年度である平成29年度は,解析を中心に実施可能である。採取した皮膚の標本から皮膚の線維化ならびに線維化に関連するタンパク,リンパ管とその成長因子が超音波療法によりどのように変化したかを免疫組織化学やWestern blottingなどを用いて明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究により,超音波療法の放射線皮膚障害に対する効果を一部見出すことはできたが,系統立った結論までは導き出せておらず,より詳細なデータ収集が必要であったため学会発表に至らなかった。そのため,自費にて学術集会に参加したため,その分の余剰金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に行うことが出来なかった学術集会での発表のための旅費として使用する。また,標本解析のための試薬の購入費として使用する。
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