研究課題/領域番号 |
15K16353
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神田 寛行 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50570248)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工網膜 / 視線計測 / 電気刺激 / 人工臓器 / 人工視覚 / 埋込型医療機器 / ブレインマシンインターフェース |
研究実績の概要 |
初年度の研究から、視線フィードバック機構を組み込んだ人工網膜試作機の性能評価を行ったところ、処理時間とシステムの重量の問題が明らかとなった。そこで、本年度の研究目標を一部変更し、処理時間の短縮と体外装置の軽量化を目指した検討を進めた。 原因究明の結果、処理時間および重量の問題点は、上記試作機に組み込まれている線計測システムに起因することが明らかとなった。この視線計測に市販の画像解析型のシステムが搭載されていた。通常、画像解析型では前眼部画像を撮影して、その画像から視線方向を算出する。この画像処理に時間がかかっていた。そして、前眼部撮影カメラとカメラ保持フレームがシステムの重量の増加の原因となっていた。 まずは、画像解析型以外の視線計測手法を検討し、上記問題点の解決を試みた。画像解析型以外の既存の視線計測法には、サーチコイル法とEOG法が挙げられる。サーチコイル法はシステムのサイズや重量が大きい。EOG法は軽量かつ処理が速いが、人工網膜の対象となる網膜色素変性患者では疾患によりEOGが計測できない。これらの理由から既存の手法は上記問題点の解決策とならないことが明らかとなり、新たな視線計測方法を検討する必要が出てきた。 そこで今回、人工網膜からの電気刺激を利用した視線計測法を考案した。人工網膜では光覚を生み出すために電気刺激を用いる。刺激に伴う電位変動は眼球周囲の皮膚表面でも検出する事ができ、さらに電極からの距離によって電位が変化することから視線計測に使えるのではないかと考えた。検証試験として中型動物(ネコ)を用いて、視線方向と眼球周囲の電位変動の関係を調べた。5例中全例で視線方向と電位変動の振幅が線形回帰できることを確認した。この手法は、EOG同様に軽量かつ高速処理が可能であることから上記問題点を解決できると期待される。この結果を基に、特許を出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時は2年目までの目標として視線追尾の有効性を人工網膜シミュレータで検証することと、視覚障害者の眼球運動解析を目標としていた。前者は1年目で検証済みで、後者についてもすでに共同研究者の研究により評価済みである。人工網膜シミュレータの結果から、当初の予想とは異なって既存システムの問題点が明らかとなったが、これをきっかけに人工網膜に特化した新たな視線計測法の発明に繋がった。さらに、この新手法に関する特許の出願も行った。以上の理由から、当初の計画以上に進展していると見なすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
今回発明した視線計測法を利用した視線計測システムの試作機を製作しどの程度時間短縮や軽量化が見込めるか検証を進める。
また、初年度の評価に用いた人工網膜シミュレータには旧式のヘッドマウントディスプレイが用いられていたた。この装置では視野角が狭いため可能な実験項目に制限があった。特に歩行テストには不向きであった。本年度終了時点で広視野角型の新型ヘッドマウントディスプレイを搭載した人工網膜シミュレータの製作が完了した。最終年度では、この人工網膜シミュレータを用いて、視線フィードバック機構の歩行機能への改善効果についても合わせて検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の使用額が、当初に比べて約9%程度少なく収まった。ほぼ当初の予定に近い値ではあるが、少なく収まった理由は人工網膜シミュレータ向けの広視野角ヘッドマウントディスプレイの購入費用が予想よりも低く収まったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた繰越金は研究発表(論文発表費用や学会発表費用)に充当する。
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