研究課題/領域番号 |
15K16356
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
片岡 英樹 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 客員研究員 (50749489)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 廃用性筋萎縮 / 温熱刺激 / 筋収縮運動 |
研究実績の概要 |
今年度は「糖尿病(DM)を合併した廃用性筋萎縮に対する温熱刺激と低強度運動の併用効果に関する基礎研究」を主目的として掲げ,臨床で頻繁に遭遇するDMを合併した廃用性筋萎縮を実験モデルラットを用いてシミュレーションし,骨格筋に対する温熱刺激と低強度運動の併用効果を検討した.10週齢のWistar系雄性ラット(n=18)に対し,尾静脈よりstreptozotocin(STZ)(60mg/kg)を投与することで,高血糖状態(≧300mg/dl)を惹起した後,①通常飼育を行う対照群(n=4),②2週間のギプス固定を行う固定群(n=3),③ギプス固定期間中に温熱刺激を負荷する温熱群(n=3),④ギプス固定期間中に筋収縮運動を行う運動群(n=4),⑤ギプス固定期間中に温熱刺激と筋収縮運動を行う温熱+運動群(n=4)に振り分けた.温熱刺激は約42℃に設定した温水浴内に60分間,後肢全体を浸漬することで負荷し,筋収縮運動は電気刺激装置を用いて,周波数50Hz,パルス幅250μsec,刺激強度2mAの条件で1日20分間(3回/週),下腿三頭筋を経皮的に電気刺激することで負荷した.実験期間終了後,両側の腓腹筋内側頭を採取し,凍結横断切片を作製後,myosin ATPase染色を施し,各タイプの筋線維直径を計測した.結果,全ての筋線維タイプの筋線維直径は,対照群に比べ他の4群は有意に低値を示した.実験群間の比較では,type I線維の筋線維直径は温熱+運動群と固定群の間に有意差を認めなかった.一方,type Ⅱa線維の筋線維直径は温熱+運動群と温熱群が固定群に比べ有意に高値を示した.また,type Ⅱb線維の筋線維直径は温熱+運動群と運動群が固定群に比べ有意に高値を示した.以上の結果から,高血糖状態にあっても温熱刺激と筋収縮運動の併用はそれらを単独で負荷するよりも廃用性筋萎縮の進行抑制効果が高く,しかも速筋線維に効果的であることから,DMを合併した廃用性筋萎縮の治療戦略として有用であることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は「糖尿病(DM)を合併した廃用性筋萎縮に対する温熱刺激と低強度運動の併用効果に関する基礎研究」を基盤に研究計画を進めてきた.現状では,ややサンプルサイズが少ないものの,高血糖状態であっても温熱刺激と筋収縮運動の併用による廃用性筋萎縮の進行抑制に効果があるという当初の仮説を支持する結果が得られており,研究計画としてはおおむね順調に進展していると考えている.今後は,サンプルサイズを追加するとともに,効果発現のメカニズムについて検討を進めていく予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果から,DMを合併した廃用性筋萎縮の治療戦略として温熱刺激と筋収縮運動を併用した方法の有効性が明らかになりつつあり,次年度はさらにサンプルサイズを増やし,この有効性の統計学的根拠を明確にする.加えて,効果発現のメカニズムの一旦には分子シャペロン機能を持つheat shock protein 72の発現が関与していると予想しており,この点について生化学的・免疫組織化学的手法を用いて検討する予定である.さらに,「DM合併患者に対する温熱刺激を併用した理学療法の効果検証」として,臨床介入研究も進めていく予定である.具体的には,筋力トレーニングや持久運動といった通常の理学療法プログラムに,遠赤外線ホットパックを用いた温熱刺激を併用し,筋力,身体パフォーマンスの向上に及ぼす影響を検討していく予定である.
|