研究実績の概要 |
前年度までに申請者は、第一次運動野(M1)損傷後に腹側運動前野(PMv)で生じる機能代償がどのような神経回路編成により制御されているのかを検証するために、解剖学的トレーサー(BDA)を用いてPMvニューロンの投射先を健常マカクサルと運動機能回復後のM1損傷マカクサルとの間で比較したところ、前者よりも後者の方が赤核(大細胞層)や小脳核(特に室頂核)へと向かうPMvニューロン数(button数)が有意に高かったことを国際学会などで報告してきた(Yamamoto et al, 2017, FENS etc.)。また、M1損傷後にPMvからの投射を受ける室頂核ニューロンの性質を検証するために、小脳及び小脳核の区分に関与するマーカー分子(aldolase C 等)を用いた免疫染色実験を行ったところ、BDA陽性軸索終末は主に室頂核の中央から尾側の領域に観察され、このような領域は体性感覚情報処理に関与すると考えられているaldolase C 陰性領域であったことを国内学会などで報告してきた(Yamamoto et al, 2018, 日本神経科学学会etc.)。これらの結果は、赤核や小脳核へと投射するPMv経路の増加がM1損傷後の運動機能回復に寄与することを示唆するものである。 本年度は、これら研究成果の論文化を進めるために、M1損傷領域およびBDA注入領域の個体差を確認する追加実験を行った。その結果、損傷領域は全ての個体においてM1に、BDA注入領域は1個体を除いた全ての個体においてPMv領域(F4/F5領域)に限局していた。PMv領域の組織破損により1個体はBDA注入領域を確認することができなかった。これは脳摘出時における予期せぬ硬膜癒着が原因であると考えられた。本研究成果に関する論文執筆は概ね完成している。
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