研究実績の概要 |
アキレス腱(AT)障害の発生メカニズムとしては,近年では,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として重要視されてきている.この原因としては,ATの特徴的な構造が関与している可能性が示唆されているが,ATの捻れの程度の違いを考慮して検討した報告はない.そこで本研究の目的は,踵骨を回内・回外方向に動かした際にATを構成する各腱線維束に加わる伸張度(%)を捻れのType毎に検討することとした. 対象は,ATの3つの捻れのType(軽度,中等度,重度の捻れ)を1側ずつ(合計3側,全て左側,平均年齢:83 ± 18歳)を使用した.3DデジタイザMicroScribe装置を使用して,ATを構成する腓腹筋内側頭(MG)の停止する腱線維束,外側頭(LG)の停止する腱線維束,ヒラメ筋(Sol)の停止する腱線維束の筋腱移行部の最遠位端と踵骨隆起付着部の2点と,踵骨隆起(4点)をデジタイズして3次元再構築した.その後,踵骨隆起の中点を基準に作成した絶対座標系上で回内(20°)・回外(20°)方向に踵骨を動かした際の各腱の伸張度(%)をシミュレーションして算出した. どのタイプにおいても踵骨を回内すると,MG・LGは短縮,Solは伸張し,回外時にはMG・LGは伸張し,Solは短縮した.特に,重度の捻れタイプ(TypeⅢ)では,踵骨の回内時にSolの伸張度が最も大きく(TypeⅠ: Sol:1.7 ± 3.4%, TypeⅡ: Sol:2.4 ± 1.4%, TypeⅢ: Sol:3.7 ± 6.0%),更にSolを構成する各腱線維の伸張度が異なった. 本研究結果より,踵骨回内時にはAT内に加わる伸張度は一様ではなく,特に,TypeⅢではAT障害の発生リスクが高まる可能性が示唆された.本研究結果はAT障害発生メカニズムの解明に繋がり,更には新たな予防法の解明の一助になると考える.
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