平成29年度はstreptozotocin(STZ)誘発1型糖尿病モデルラット(糖尿病ラット)の皮質脊髄路軸索の脊髄内分布を明らかにする目的で、電気生理学的解析を行った。実験はケタミン麻酔下で維持したラット(糖尿病群と同週齢の対照群)の運動野にタングステン微小電極を刺入し、皮質内微小電気刺激法を用いて運動野の身体部位再現を調べた。次に頸髄および腰髄にタングステン微小電極を刺入し、皮質脊髄路を電気刺激することによって誘発される皮質脊髄路細胞の逆行性フィールド電位を運動野の前肢、後肢領域に相当する領域から測定した。実験終了後、脳と脊髄を摘出し、刺激部位と記録部位の距離から皮質脊髄路の伝導速度を算出した。 糖尿病ラットの運動野前肢領域はSTZ投与後23週間、後肢領域は13週間より萎縮が認められた(前肢領域は35%、後肢領域は50%減少)。また、皮質脊髄路軸索はSTZ投与後23週間から頸髄に投射する軸索、腰髄に投射する軸索共に伝導速度低下が認められた。さらに、運動野前肢領域では糖尿病発症の有無やその病期期に関係なく、頸髄の刺激によって領域全体から逆行性フィールド電位を観察できたが、STZ投与後23週間の後肢領域では、腰髄を刺激しても逆行性フィールド電位が観察されない領域が後肢領域の40%程度で認められ、その領域は後肢領域の縮小した部位とほぼ一致した。一方、頸髄を刺激すると後肢領域全体からフィールド電位を観察することができた。 以上のデータは糖尿病ラットの皮質脊髄路軸索には伝導速度の低下などの機能異常が広く生じることを示している。特に運動野後肢領域に起始し腰仙髄に投射する皮質脊髄路軸索は頸髄レベルまでの機能は保たれているが、それよりも尾側において軸索の興奮性が失われるか、退縮が生じていると考えられた。
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