本研究は、実験動物を用いて関節拘縮の治療と予防に対する低出力超音波パルス治療(以下LIPUS)の効果を組織学的に検討することである。関節の強度や伸張性に大きく影響するであろう後部関節包のコラーゲン線維束間の間隙に着目し、不動化により生じた狭小化がどの程度改善するのか、あるいは予防的な介入ではどの程度間隙を維持できるのか観察することを目的とした。 平成28年度にはLIPUSの関節拘縮予防効果について検証を行った。ラット膝関節をギプスにより不動化させ、実験群は期間中、毎日1回ギプスを除去し、膝関節に対してLIPUS照射を加えた後、再固定を行った。対照群はプラセボ照射を行う以外は全て同一条件とし、4週間の飼育期間の後、比較検討した。その結果、実験群と対照群で関節可動域制限の程度に有意差を認めず、また、膝関節後部関節包の組織所見(厚みおよび膠原組織間の間隙の割合)においても著明な差を認めなかった。本研究結果からは、LIPUSによる関節拘縮予防効果は明らかに出来なかった。 これまでにLIPUSが不動期間中の関節に与える影響を検討した報告はなく、拘縮の予防について新たな知見を加えることができた。拘縮治療にLIPUSを用いた場合には一定の効果を認めており(平成27年度実績)これとあわせると、LIPUSによるメカニカルストレスは細胞の増殖とアポトーシスの両方を促し、それは細胞が置かれている環境に適応するように調整されるとする先攻研究の示唆を裏付けるものと考えられ、この点についても興味深い知見を得ることが出来た。
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